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ときどき旅に出るカフェ*近藤史恵

  • 2017/08/31(木) 16:23:18

ときどき旅に出るカフェ
双葉社 (2017-07-28)
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平凡で、この先ドラマティックなことも起こらなさそうな日常。自分で購入した1LDKのリビングとソファで得られる幸福感だって憂鬱のベールがかかっている。そんな瑛子が近所で見つけたのは日当たりが良い一軒家のカフェ。店主はかつての同僚・円だった。旅先で出会ったおいしいものを店で出しているという。苺のスープ、ロシア風チーズケーキ、アルムドゥドラー。メニューにあるのは、どれも初めて見るものばかり。瑛子に降りかかる日常の小さな事件そして円の秘密も世界のスイーツがきっかけに少しずつほぐれていく―。読めば心も満たされる“おいしい”連作短編集。


職場ではお局呼ばわりされる年齢になり、友人たちも結婚したり子どもを産んだりして価値観が少しずつ違ってきて、自分で選んだこととは言え、我が身を持て余し気味だった瑛子が主人公である。家の近くでたまたま見つけて入ったカフェ・ルーズは、偶然にもかつて職場で一緒に働いていた葛井円が営む店だった。毎月一日から八日までは休みで、円はその期間、旅行に出かけたり、メニューの試作をしたりしているらしい。海外で見つけたその土地で親しまれている料理の名前が並ぶメニューは、普通のカフェでは見慣れないものなのだった。円が心を込めて作る料理は、その思いの分もあたたかく美味しくて、瑛子のお気に入りの場所になる。職場やカフェで起こる出来事の、ほんの些細な違和感を、おいしいスイーツと円の人柄や思いやりがするすると解きほぐしていくのである。辛いこともあるし、受け容れがたいこともたくさんあるが、価値観を大らかに持てばなんてこともないのかもしれないと思わせてくれる一冊でもある。

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