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猫ヲ捜ス夢  蘆野原偲郷*小路幸也

  • 2017/12/06(水) 16:48:21

猫ヲ捜ス夢: 蘆野原偲郷 (文芸書)
小路 幸也
徳間書店
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古より、蘆野原の郷の者は、人に災いを為す様々な厄を祓うことが出来る力を持っていた。しかし、大きな戦争が起きたとき、郷は入口を閉じてしまう。その戦争の最中、蘆野原の長筋である正也には、亡くなった母と同じように、事が起こると猫になってしまう姉がいたが、行方不明になっていた。彼は、幼馴染みの知水とその母親とともに暮らしながら、姉と郷の入口を捜している。移りゆく時代の波の中で、蘆野原の人々は何を為すのか?為さねばならぬのか?


暮らしの隅々の細かいことが、普段当たり前に思っている指標とはいささか違う次元にあるので、馴染むまでには戸惑いもあるが、次第にそんなものだと得心して物語にのめり込む。白い猫になり行方知れずになっている姉が帰ってくるのを心待ちにしながら、日々、「事」を成して暮らしている正也と知水の周りに、ぽつりぽつりと不思議なことが起こりはじめる。蘆野原の端境を見つける手掛かりに近づくのだろうか、と興味はいや増す。そんな出来事のひとつをたどった先で出会ったのは、言葉を話さない少女・美波であり、彼女もまた不意に猫になる性質なのだった。彼女が現れたことで、蘆野原への道はひらけはじめる。蘆野原という偲郷を、よく判らないながらも認めている世界にあって、彼らの果たす役割は何なのだろう。そして彼らに安らげるときは来るのだろうか。日本人の心の奥深くに、失くしてはいけない何かの物語なのかもしれないと思わされる一冊でもある。

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