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色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年*村上春樹

  • 2018/03/14(水) 16:39:29

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年
村上 春樹
文藝春秋 (2013-04-12)
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良いニュースと悪いニュースがある。多崎つくるにとって駅をつくることは、心を世界につなぎとめておくための営みだった。あるポイントまでは…。


表面的にはとても恵まれた人生を送っているように見える多崎つくるの内面の物語である。高校時代にほんの偶然によって集められた男女五人のグループが、その時代の彼らにとって何ひとつ欠けることのない円環のように、ある意味閉じた充足の世界を作りだし、ある日突然、なんの思い当たることもないにもかかわらず、その輪からはじき出された結果、これ以上失うものがないかのような精神状態になり、始終死と隣り合わせのような日々を過ごした後、ほんの些細なきっかけで色のついた世界に戻って来た多崎つくるのそれからの事々である。他者から見える自分と、自覚的な自分との乖離は、ある年代に誰もが経験することだと思うが、彼の場合、必要充分な円環の中にいるときでさえ、そのことにコンプレックスを感じており、はじき出されてからというもの、自分というものにとことん実感を持てなくなっているように見受けられる。そんな彼をつなぎとめてくれたのが、二歳年上の沙羅であり、また別の生きる苦悩を与えたのも同じく彼女だった。多崎つくるのこれからの人生がどんな色彩を帯びていくのか、ラストでは曖昧にされたままだが、生を感じられるあしたが来ることを祈らずにいられない。読み手の年代や状況によって、さまざまな印象を残す一冊だとも思える。

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