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海馬の尻尾*荻原浩

  • 2018/03/18(日) 19:23:46

海馬の尻尾
海馬の尻尾
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荻原浩
光文社
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二度目の務めを終えた及川頼也は、その酒乱を見るに見かねた若頭に、アルコール依存症を治すよう命じられる。検査の結果、「良心がない」とまで言われた男がどのように変わっていくのか。名著『明日の記憶』の著者が、再び「脳」に挑む。


読み始めて間もなく、荻原作品を読んでいるつもりだったのに、これは誉田作品だったか、と表紙を見直してしまうほど、これまでとはがらっと趣の違う物語である。主人公は反社会的勢力の構成員で、良心をもたず、恐怖の概念が抜け落ちている及川頼也。舞台はとある医療機関。アルコール依存症の治療のために8週間入院するという名目で入ってみれば、そこは隔離病棟なのだった。治験と称する人体実験による人格の変化や、想定外の人間関係による症状の改善など、興味深い要素がたくさんある。患者側はもちろんのこと、医師をはじめとする医療機関側の人間たちの人格にも興味を惹かれる。まさにバイオレンスの日々を生きてきた及川だったが、彼にはここの治療が合ったのか、少しずつ人間的な感情を取り戻し始めると、さまざまなことに気づき、わかってくることがある。その様子も注目に値する。どの登場人物も細部まで丁寧に描かれていて、目の前で動いているような気にさえなってくるのも見事である。ここで起こっていることは、大変なことだが、描かれていない部分にもっと深い根っこがあるのが透かし見られて、空恐ろしくなってくる。ハッピーエンドを想像するのは難しいラストではあるが、及川にはなんとしてでも逃げ切って、梨帆たちと再会してほしいと心から願ってしまう一冊である。

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