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樽とタタン*中島京子

  • 2018/04/23(月) 16:44:40

樽とタタン
樽とタタン
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中島 京子
新潮社
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忘れかけていた子どもの頃の思い出を、あざやかに甦らせる傑作短篇集。小学校の帰りに毎日行っていた赤い樽のある喫茶店。わたしはそこでお客の老小説家から「タタン」と名付けられた。「それはほんとう? それとも噓?」常連客の大人たちとの、おかしくてあたたかな会話によってタタンが学んだのは……。心にじんわりと染みる読み心地。甘酸っぱくほろ苦いお菓子のように幸せの詰まった物語。


病的なまでに家から出ることに恐怖を感じていた幼いころ、母や祖母となら家の外に出かけることができた。勤めに出ていた母よりは、祖母と暮らす日々がトモコを作ったのかもしれない。そんなある日、偶然母と入った喫茶店は、かつて祖母が生きていたころ入ったことのある店で、どういうわけかそこなら怖くなかったので、以来、放課後には、仕事終わりの母を待ってその喫茶店=レッド・バレルで過ごすようになったのだった。そして、その店の赤い樽が指定席のようになり、常連の老小説家にタタンと名付けられるのである。こどもは、大人が思うよりも、大人の話をよく聞いていて、結構よく覚えてもいる。そして大人は、そのつもりはなくても、こどもにさまざまなことを日々教えているものだ。それぞれの孤独を抱えた常連客たちの言葉の端々からたくさんのことを吸収し、タタンは少しずつ大きくなっていった。大人になって思い出すあれこれは、あの頃に培われたものなのかもしれない。あの喫茶店は、すべての大人とこどもたちの心の世界なのかもしれない。ひとりぼっちの寂しさと、守られている安心感に包まれる一冊でもある。

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