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わたしの忘れ物*乾ルカ

  • 2018/06/20(水) 16:40:02

わたしの忘れ物
わたしの忘れ物
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乾 ルカ
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中辻恵麻がH大学生部から無理矢理に紹介された、大型複合商業施設の忘れ物センター―届けられる忘れ物を整理し、引き取りに来る人に対応する―でのアルバイト。引っ込み思案で目立たない、透明なセロファンのような存在の私に、この仕事を紹介したのはなぜ?なぜこんな他愛のない物を引き取りに来るの?忘れ物の品々とその持ち主との出会い、センターのスタッフとの交流の中で、少しずつ心の成長を遂げる恵麻だが―。六つの忘れ物を巡って描かれる、じんわりと心に染みる連作集。


妻、兄、家族、友、彼女、そして私、という六つの忘れ物の物語である。大型商業施設の喧騒から離れた先の、スタッフオンリーかと思ってしまうような通路を曲がったところにある忘れ物センターが物語の舞台である。中辻恵麻は、母の介護のために休職中の係長の穴埋めのために、成り行きで半ば無理やりにここでアルバイトすることになったのである。舞台や設定からは、何やら小川洋子めいた匂いがするし、ガラクタにしか見えない忘れ物たちに、見えない価値を見つけ出す水樹さんや橋野さんも、いささか謎めいていて、興味を惹かれる。忘れ物を取りに訪れる人たちにもそれぞれ生活があり、さまざまなものを抱え込んでいて、そんなその人だけの価値を知ることにも心惹かれる。だが、それだけでこの物語は終わらない。恵麻の忘れ物の物語が解き明かされるとき、いままでの不思議が氷解し、あたたかい涙とともに流れ出してくるのである。遅くなくてよかった、と恵麻に行ってあげたくなる一冊である。

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