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悲体*連城三紀彦

  • 2018/08/04(土) 18:45:51

悲体
悲体
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連城 三紀彦
幻戯書房
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40年前に消えた母を探し韓国へ来た男の物語は、それを書きつつある作者自身の記憶と次第に混じり合う…出生の秘密をめぐるミステリと私小説的メタフィクションを融合させた、著者晩年の問題作にして最大の実験長篇、遂に書籍化。


いま自分は物語を読んでいるのか、著者の語りを聴いているのか、時々判然としなくなり、夢とうつつの間を行きつ戻りつしている心地にさせられる。父と母、そして自分。さらには母といい仲になった男。彼らの胸の芯にあっただろうものに思いを馳せ、捕まえかけたと思えばまたするりと逃げられる。自分の身体の中を巡る血は、誰と誰のものなのか、そして、どこの国のものなのか。あの時の彼、彼女の思惑はどんなことだったのか。自分は本当はどうしたかったのか。そんな取り返しのつかないあれこれが、不意に押し寄せてきて、それに駆り立てられるように韓国へ飛ぶ。謎が謎を呼び、手掛かりが見えたと思えば、またつかみ損ねるようなもどかしさと、いっそのこと知らずにいた方が幸せでいられると、わざと追わずにいたりもする。自分探しは、傷つくことを恐れていてはできないのかもしれない。もどかしく、哀しく、やるせない一冊である。

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