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緑のなかで*椰月美智子

  • 2018/11/20(火) 18:40:40

緑のなかで
緑のなかで
posted with amazlet at 18.11.20
椰月美智子
光文社
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青木啓太は、しまなみ海道の壮大な「橋」に心惹かれ、土木工学を学ぶため、家から遠く離れた北の大地にあるH大に入学する。自治寮に入り、大学紹介の活動、フィールドワークのサークルなど、友人たちと青春を謳歌している彼のもとに、母が失踪したと双子の弟、絢太から連絡が入る。あの、どこか抜けていて感受性豊かな母が、なぜ突然消えてしまったのか…。自然豊かな美しいキャンパスで大学三年生となった青年の成長と苦悩を描く。


奔放な中にもある種の規律がある寮生活の描写が、いかにも青春でほほえましい。いかにも溶け込めそうにない印象の啓太だったが、何事にも慣れるもので、大学三年のいまではすっかり緑旺寮の寮生である。そんな寮生活と、サークル活動を軸に、啓太と友人たちが互いに影響しあい刺激しあって若い時代を過ごしている様子が興味深い。そして、兄弟間で差のある母からの愛情の注がれ方に悩むのは、一卵性双生児であればなおさらで、それを口に出せないばかりになおさら、自分の思っているのとは違う方向に向かってしまうのは皮肉なものである。そんな母に好きな人ができて家を出た。そしてさらに、無念さに叫びだしたくなる出来事が……。読者も泣かずにはいられない。なぜ?どうして?自分を責めることしかできない気持ちが、手に取るように伝わってきて、胸が痛くなる。後半の「おれたちの架け橋」には、自死した寿を含めた、啓太の高校時代の日々が描かれている。いまの啓太を作った光あふれる高校生活である。同じ屈託を抱えてはいるが、これから自分で自分の道を切り開こうとする時代である。何より寿が生きている。先のことを知っているだけに、切なさやりきれなさが募る。一見非の打ちどころがなく、うらやましいばかりに見える人にも、その人なりの悩みがあり、押しつぶされそうになることもあるのだと、わかるだけでも人生はずいぶん生きやすくなるのではないだろうか。啓太には、悩みつつも受け容れて、いつの日か立派な橋を作ってもらいたいものである。両手でひさしを作ってまぶしすぎる光を和らげたくなるような一冊である。

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