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会社を綴る人*朱野帰子

  • 2019/01/04(金) 21:06:05

会社を綴る人
会社を綴る人
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朱野 帰子
双葉社
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何をやってもうまくできない紙屋が家族のコネを使って就職したのは老舗の製粉会社。
唯一の特技・文を書くこと(ただし中学生の時にコンクールで佳作をとった程度)と
面接用に読んだ社史に感動し、社長に伝えた熱意によって入社が決まったと思っていたが――
配属された総務部では、仕事のできなさに何もしないでくれと言われる始末。
ブロガーの同僚・榮倉さんにネットで悪口を書かれながらも、紙屋は自分にできることを探し始める。
一方、会社は転換期を迎え……?会社で扱う文書にまつわる事件を、
仕事もコミュニケーションも苦手なアラサー男子が解決!?
人の心を動かすのは、熱意、能力、それとも……?
いまを生きる社会人に贈るお仕事小説。


面白い構成の物語である。物語の大部分で、ほとんどの人が仮名なのである。なぜかというと、会社の暗黒部分をブログにアップしている同僚の榮倉さんが、つけた名前だからである。主人公の紙屋(仮名)は、劣等感の塊であり、実際に何をやらせてもまともにできない。唯一できることといえば、文章を綴ることくらいなものである。優秀な商社マンの兄のコネで製粉会社に入った紙屋は、周りに迷惑をかけながらも、自分に正直に文章を綴り続ける。タイトルを見ると、創業時からの社史編纂に関わる物語を想像してしまうが、紙屋が書くのは、社内メールや工場の安全標語、営業部のプレゼン資料や広報誌にのせるコラムの添削など、日常の業務のほんの一端である。それでも、紙屋の与えられた仕事に真摯に向き合う姿は、少しずつ周囲の見方を変えていく。真面目なのはいいことだ、正直に生きるのは素晴らしいことだ、と思わされる。自分は何もできないと自覚したうえで、これならできると思えたことに真摯に向かう姿は人の胸を打つ。紙屋の正直さが、社内の人間関係や、日々の在り方にまで影響を及ぼす様子を見ると、なぜかほっとする。紙屋(本名・菅谷大和)のことをもっと知りたいと思わされる一冊だった。

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