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渦 妹背山婦女庭訓 魂結び*大島真寿美

  • 2019/04/08(月) 18:51:13

渦 妹背山婦女庭訓 魂結び (文春e-book)
文藝春秋 (2019-03-11)
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筆の先から墨がしたたる。やがて、わしが文字になって溶けていく──
虚実の渦を作り出した、もう一人の近松がいた。

江戸時代、芝居小屋が立ち並ぶ大坂・道頓堀。
大阪の儒学者・穂積以貫の次男として生まれた成章。
末楽しみな賢い子供だったが、浄瑠璃好きの父に手をひかれて、芝居小屋に通い出してから、浄瑠璃の魅力に取り付かれる。
近松門左衛門の硯を父からもらって、物書きの道へ進むことに。
弟弟子に先を越され、人形遣いからは何度も書き直しをさせられ、それでも書かずにはおられなかった半二。

著者の長年のテーマ「物語はどこから生まれてくるのか」が、義太夫の如き「語り」にのって、見事に結晶した長編小説。

「妹背山婦女庭訓」や「本朝廿四孝」などを生んだ
人形浄瑠璃作者、近松半二の生涯を描いた比類なき名作!


読み始めは、関西言葉や時代背景に馴染めず、なかなか物語に入り込めなかったが、次第に興が乗ってきて、次の展開が待ちきれないようになった。ランナーにはランナーズハイがあるというが、ライターにもライターズハイのようなものがあるのだろう。自分が書いているのではなく、なにかが降りてきて、あるいは、なにかに憑かれるように、書かされた、という感じなのだろうか。傑作とは往々にしてそんな風にして生み出されるものなのかもしれない。自らが創り出したものに違いはないのに、いつの間にか主人公がそこにいて、彼(彼女)が勝手に物語を紡ぎだしていく感覚のようである。その境地に行きつくまでが凄まじい。後半、半二が生み出したキャラクタ・三輪の語りが混じるが、それが時空を超えて現代にまで及んでおり、わかりやすい。半二が生きた時代と道頓堀という場所の熱気が伝わってくるような一冊だった。

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