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むらさきのスカートの女*今村夏子

  • 2019/07/18(木) 18:59:14

【第161回 芥川賞受賞作】むらさきのスカートの女
今村夏子
朝日新聞出版
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近所に住む「むらさきのスカートの女」と呼ばれる女性のことが、気になって仕方のない〈わたし〉は、彼女と「ともだち」になるために、自分と同じ職場で働きだすように誘導し……。

『こちらあみ子』『あひる』『星の子』『父と私の桜尾通り商店街』と、唯一無二の視点で描かれる世界観によって、作品を発表するごとに熱狂的な読者が増え続けている著者の最新作。


不思議な物語である。とはいえ、作中で起こっていることにはさほど不思議なことはなく、(癖はあるが)普通の女たちの日常が描かれているに過ぎない。それでも、始まりから不穏さが漂う。「むらさきのスカートの女」は、働いたり働かなかったりで、昼間公園の決まったベンチでクリームパンを食べていたり、人にぶつからずに道を歩くことができたり、何となく変わり者として町の名物のようであり、自称「黄色いカーディガンの女」であるわたしは、彼女と友だちになりたいがためにあれこれ策を弄するのである。むらさきの女=変人、と思い込んで読み進めるのだが、ふと立ち止まると、ほんとうに変わっているのは別の人のように思われてくる。その視点の切り替わり方が不思議さにつながるのかもしれない。自分の目が信じられなくなるような……。むらさきのスカートの女を描いていると見せかけて、実は別の人のことをクローズアップしたかったのではないかと、ページが残り少なくなってやっと気づかされる。一筋縄ではいかない物語であり、ラストのその後が気になって仕方がない一冊でもある。

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