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傲慢と善良*辻村深月

  • 2019/09/09(月) 20:28:16

傲慢と善良
傲慢と善良
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辻村 深月
朝日新聞出版
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婚約者が忽然と姿を消した。その居場所を探すため、西澤架は、彼女の「過去」と向き合うことになる―。作家生活15周年&朝日新聞出版10周年記念作品。圧倒的な“恋愛”小説。


圧倒的な恋愛小説、というよりは、いままでになかった形の恋愛小説ではないかと思う。恋愛に至ることのできない環境にあるとか、自分を高く見積もりすぎているとか、さまざまな理由でスムーズに結婚できずに焦り始めた男女が、婚活を経て、結婚を視野に入れられる相手と出会う。それだけなら単なる婚活物語だが、ほんとうの物語はここから始まるのである。これまで生きてきた過程で、自分というものをどういう風に捉えているか、婚活という尺度を当てはめて、初めてそのことに思い至ることもある。それまで見えていなかった自らの傲慢さをいやというほど見せつけられ、他人を羨みながら蔑むという、歪んだ心理状態にもなる。多かれ少なかれ誰にもあることのようにも思うが、ここまではっきりと言葉にして突き付けられることは、滅多にあることではなく、普通は、自覚することもなく先に進むのだろうと思うと、それもまた怖い。善良だと思っている自分の傲慢さが、引きずり出されるいたたまれなさもあって、いつしか物語の先を追いかけている。第二部では真実(まみ)の視点になり、急展開し、その唐突さにいささか面食らうが、真実にとっては命がけの行動であり、それでこそのこのラストなのだと思うとうなずける。いい物語だったと思える一冊である。

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