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昭和稲荷町らくご探偵 高座のホームズ みたび*愛川晶

  • 2019/12/18(水) 06:59:19


真打ち昇進を目前に控えた二つ目・佃家花蔵が、高座で[犬の目]を口演中に、酔客に片眼を殴打される災難に。花蔵の兄弟子・傳朝と梅蔵は長年の不仲を改め、花蔵のために一緒に協力し、花蔵を援助することを誓う。ところがその直後、今度は傳朝が夜道で暴漢に襲われる……。二つの事件の裏には、思いもよらぬ謎が隠されていた。名探偵・八代目林家正蔵の推理がまたもや冴え渡る、痛快落語ミステリー第三弾!文庫書き下ろし。


シリーズ中、最もやりきれない事件である。真打傷心を目前にした落語家の人生を決めてしまう事件なのである。本人はもちろん、周囲の受けた衝撃は計り知れない。兄弟子の梅蔵が、稲荷町の師匠や、馬八師匠の名推理から事件の謎に迫り、その後の自らの対応に苦悩しつつも精進していくという物語なのだが、その顛末が、後年の思い出語りのようにして語られる、という入れ子構造になっているところが、なんとも絶妙である。あまりに凄惨な事件だっただけに、被害者・花蔵や兄弟子梅蔵のその後の人生が重く迫るのだが、この趣向故に、温かみのある物語に昇華しているという印象である。文句ない傑作と言える一冊だと思う。

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