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まずはこれ食べて*原田ひ香

  • 2020/03/29(日) 14:00:30


アラサーの池内胡雪は、大学の友人たちと起業したベンチャー企業で働き、多忙な毎日を送っている。不規則な生活のせいで食事はおろそかになり、社内も散らかり放題で殺伐とした雰囲気だ。そんな状況を改善しようと、社長の提案で会社に家政婦を雇うことに。やってきた家政婦の筧みのりは、無愛想だが完璧な家事を行い、いつも心がほっとする料理を振る舞ってくれる。筧の食事を通じて、胡雪たち社員はだんだんと自分の生活を見つめ直すが…。人生の酸いも甘いもとことん味わう滋味溢れる連作短編集。


丁寧に作った日々の食事。それこそが、疲れた心を解きほぐし、次に向かう活力を生み出してくれる。そんな食卓を整えてくれる家政婦を雇った小さなベンチャー企業の物語である。お料理がどれもおいしそうなのは言うまでもないのだが、その丁寧さとは裏腹に、家政婦の筧みのりにも、会社のメンバーたちそれぞれにも抱えている屈託があり、その闇がどんどんあらわになっていくのが怖い。一見、とてもうまくいっているように見えているものごとも、ほんの少し踏み込めば、そこにはどろどろしたものが渦巻いていて、一触即発とでもいうような状態なのである。いままで気づかないふりをしてきたあれこれが、筧の作る心も身体も温まる料理を食べることによって、自らを取り戻しつつあるメンバーたちの表に現れ始めてしまったのかもしれない。しかしまた、その食事によって、しっかりと自らを取り戻してみれば、これから進むべき道もわかってくるというもので、この先の明るさを願わずにはいられない一冊である。

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