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天使に見捨てられた夜*桐野夏生

  • 2020/04/28(火) 16:40:34


失踪したAV女優・一色リナの捜索依頼を私立探偵・村野ミロに持ち込んだのは、フェミニズム系の出版社を経営する渡辺房江。ミロの父善三と親しい多和田弁護士を通じてだった。やがて明らかにされていくリナの暗い過去。都会の闇にうごめく欲望と野望を乾いた感性で描く、女流ハードボイルドの長篇力作。


冒頭のAVの描写があまりにひどすぎて、読むのをやめたくなったが、著者のことだからこれだけで終わるはずはないと思い直して読み進んだ。案の定、出るわ出るわ、あとからあとから、ただならぬ事情が暴かれていく。渦中の一色リナは、AVの中にしか現れず、実態は杳として知れず、彼女の周囲にいた、あるいはいるだろう人びとは、次々に厄介事に巻き込まれていくように見える。果たして、彼女がこれらの悪事の首謀者なのだろうか。興味は尽きないが、それだけではない。ミロが関わっていく人たちの個性の強さや、彼らとの関係性からも目が離せない。父・善三さんは、今作でも顔を出すくらいで、深くは掘り下げられず、それなのに、絶妙な存在感を残して、早々に帰ってしまう。彼のことをもっと知りたいと思うのはわたしだけだろうか。本筋だけでなく、さまざまに愉しめる一冊だった。

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本当にご無沙汰です
桐野夏生氏は、初期のこの「ミロシリーズ」から「OUT」までがとても好きです
はじめのころは、「すんげェ人が出てきた」と興奮し、既刊本をほとんど買いそろえ、一気に読んだものです
近頃は、そんな元気がとんとない…
図書館も休館、本屋も気楽に立ち寄れず、ネットでの本の購入に頼ってましたが、
「そうか、今までの名作を読み返してみよう」と気づかされました
ありがとう

  • 投稿者: チョロ
  • 2020/04/30(木) 15:38:09
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チョロさん
お変わりなくお過ごしでしょうか。
図書館が閉まってしまったのが
今回の騒動の最初のショックでした。
一日も早く、新刊本を予約できる日が来ることを祈りつつ
いまは、籠って過ごしています。

桐野さん
体力がない時には、手を出すのを躊躇することもありますけれど
いまは、たっぷり時間もあるのでためらわずに読めました。

  • 投稿者: ふらっと
  • 2020/04/30(木) 16:07:01
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