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宝の山*水生大海

  • 2020/07/21(火) 16:28:24


かつては温泉客で賑わっていた岐阜県宝幢村。十六年前の地震で温泉が涸れ、村は衰退する一方だ。この村で生まれ育った希子は、地震で家族を亡くし、伯父夫婦と暮らしている。年金で生活を支えながら伯父の介護に明け暮れる日々だが、村役場の課長・竜哉との結婚が決まり、伯母は誇らしそうに嫁入り道具を披露している。希子が暮らす家と空き家を挟んだ隣家に住むのは、七年前にIターンしてきた長谷川一家。家にはいつも頑丈に鍵が掛けられ、高校生の長男・耀は奇声を上げて自転車で走り回るなど、村人から不審がられていた。ある日、村おこしのために雇われたブロガー・茗が突如消えてしまう。希子は、村長の妻であり、農園や工場を手広く商う来宝ファームの社長・麗美に、茗の代役を強引に依頼されるが…


過疎の町で起こる土地の名士一族に関わる禍々しい物語、というイメージで読み始めたが、もう少し現代的なストーリーではあった。だが、あながち外れというわけでもなく、二大名家の諍いの果てにもたらされた凶事の様相もある。そして、介護という苦労をしてはいるが、外の世界を知らない、いわゆる箱入り娘だった希子の成長物語でもあり、唯一希望があるとしたら、そこかもしれない。耀一家がもっと大きなカギになるのかと思ったが、その辺りはいささか肩透かしを食わされた感もある。桜がきれいに咲き誇るほど、禍々しさが増すような気がする一冊でもある。

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