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去年の雪*江國香織

  • 2020/08/27(木) 18:41:12


自由自在に時空をまたいで進む物語は、100人以上の登場人物の日常が織り込まれたタペストリーのよう。覗いているうちに、読者もまた、著者の作り出す世界の住人になってしまう。そして、思いもよらぬ地平へと連れてゆかれる。江國香織小説のエッセンスが最大限に味わえるファン待望の一冊です。


さまざまな時、場所、人びとのほんの小さなエピソードが、降り始めたばかりの雪のように、しんしんとただ積もっていく。いつかどこかで束ねられていくのかと、初めは思いもしたが、読み進めるうちに、これはそういう種類の物語ではないのだろうと、段々とわかってくる。同じ場所にも、時を超えて積もる人びとの営みがあり、場所を変えてもそれはやはりあり、どこを切り取るかによって、見えるものが全く違う。だが、時として、混線するかのように、場所と場所、時と時がつながる瞬間があって、普段暮らしていて、「あら?」と思うようなことが、もしかすると、そんな神様のいたずらのようなことなのかもしれない、などと思ってもみる。ひとりでいても、自分だけではない、というような、あたたかい心もちになれる気もする。多元的で重層的な一冊だった。

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