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テロリストの家*中山七里

  • 2020/10/10(土) 07:37:03


国際テロを担当する警視庁公安部のエリート刑事・幣原は、イスラム国関連の極秘捜査から突然外された。間もなく、息子の秀樹がテロリストに志願したとして逮捕された。妻や娘からは仕事のために息子を売ったと疑われ、組織や世間には身内から犯罪者を出したと非難される。公安刑事として正義を貫くか、父としてかけがえのない家族を守るか、幣原の選択とは―。衝撃の社会派長編ミステリー!


警察官者に暮らす公安部のエリート刑事・幣原一家に起こった出来事の顛末である。テロリスト志願という衝撃的な題材ではあるが、テロリストの物語ではなく、家族の物語と言った方がいいだろう。刑事として生きるか、父親や夫として生きるかという究極の選択を迫られもし、その時々で揺れ動く幣原の胸の裡が切なく、迫ってくるものがある。家族もそれぞれが、ばらばらのようでいて互いを思いやっており、家族だからこそ起こった哀しい出来事でもあったのかもしれない。誰もが、自分で処理しきれない理不尽な悲しみや憤怒を、どこにぶつければいいのか思いあぐね、長年にわたって地下で溜まり続けたマグマがある日突然噴火とともに流れ出すように、胸の裡のものが噴出したような事件なのかもしれない。登場人物の誰もが哀しく切なくやりきれなさにまみれているが、幣原一家にも、ひとすじの救いはあるような気がする。なんともやりきれなくもどかしい一冊だった。

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