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こんぱるいろ、彼方*椰月美智子

  • 2020/10/14(水) 18:33:31


サラリーマンの夫と二人の子どもと暮らす真依子は、近所のスーパーの総菜売り場で働く主婦だ。職場でのいじめに腹を立てたり、思春期の息子・賢人に手を焼いたりしながらも、日々は慌ただしく過ぎていく。
大学生の娘・奈月が、夏休みに友人と海外旅行へ行くと言い出した。真依子は戸惑った。子どもたちに伝えていないことがあった。真依子は幼いころ、両親や兄姉とともにボートピープルとして日本に来た、ファン・レ・マイという名前のベトナム人だった。
真依子の母・春恵(スアン)は、ベトナム南部ニャチャンの比較的豊かな家庭に育ち、結婚をした。夫・義雄(フン)が南ベトナム側の将校だったため、戦後に体制の変わった国で生活することが難しくなったのだ。
奈月は、偶然にも一族の故郷ベトナムへ向かう。戦争の残酷さや人々の哀しみ、いまだに残る戦争の跡に触れ、その国で暮らす遠い親戚に出会う。自分のルーツである国に深く関心を持つようになった奈月の変化が、真依子たち家族に与えたものとは――?


思ってもみなかった題材を扱った物語である。冒頭は、ごくごく平凡な日本の家庭の日常が描かれていて、思春期の姉弟と、その家族のあれやこれやの日々がつづられていくのだろうと思って読み進めると、大学生の娘・奈月が友人たちとベトナム旅行をすることになったあたりから、にわかに様相が変わってくる。母の真依子がいままで隠していた、自分がベトナム人だということを奈月に話したことから、奈月は困惑し、混乱し、ベトナムのことを知りたいと思い、知らなかったいろいろを知っていく。ベトナムで母の出生地を訪れ、さらに衝撃と感動を体験し、自分の中で消化していく。友人たちや恋人との関係、弟やいとこたちとの関わり、さまざまなことを、自分の頭で考え、自分のものとして蓄えていく。そんな奈月を見て、真依子自身も少しずつ変わっていくのを自分でも感じている。最後には、本の表紙の金春色(ターコイズブルー)のような開放感ともいうようなさわやかな風を感じられる一冊だった。

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