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善医の罪*久坂部羊

  • 2020/12/18(金) 19:02:36


意識不明の重体で運ばれた、横川達男。主治医の白石ルネは、延命治療は難しいと治療を中止。家族の同意のもと、尊厳死に導いた。三年後、カルテと看護記録の食い違いが告発される。白石は筋弛緩剤を静脈注射したというのだ。医療業界を揺るがす大問題へと発展し、検察は彼女を殺人罪で起訴した。保身に走る先輩医師、劣等感を感じる看護師、虚偽の報道を繰り返すマスコミ。様々な思惑が重なり合い、事態は思わぬ方向へと転がって―。


事実をモデルにしたフィクションということで、まさに医療の現場、上層部の思惑、医師同士の確執、出世欲、さらにはマスコミの実態、などなど、現場の空気感がリアルに伝わってくる物語である。ルネの誠心誠意の治療や患者家族への対応には頭が下がる思いがする。それなのに、主張が全く伝わらないもどかしさと無力感といったら、読んでいるこちらも、歯噛みしながら地団太を踏みたくなるほどである。人の命にかかわることでさえ、身勝手な思惑が事実を変えてしまうこともあるのか、とやりきれなさと憤りに包まれる。公正なはずの裁判でさえ然りである。孤立無援の戦いではなかったことがせめてもの救いだろう。死にゆく者と、送る者、その間に立つものなどのことを、さまざま考えさせられる一冊だった。

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