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口福のレシピ*原田ひ香

  • 2021/01/20(水) 16:32:45


フリーのSE兼料理研究家として働く留希子の実家は、江戸時代から続く古い家柄で、老舗料理学校「品川料理学園」を経営している。大学こそ親の希望があって栄養学を専攻したが、幼い頃から後継者の道が決まっている雰囲気や、昔からの教則本を使う学園の方針への抵抗が留希子にはあった。卒業後は、製品開発会社にSEとして就職した。しかし、料理をすることは好きだった。SNSでの発信をきっかけに雑誌からも仕事の依頼が来るようになり、料理研究家としての認知度を上げていた。
忙しい女たちを助けたいと、留希子は令和元年になるゴールデンウィークに向けた簡単で美味しい献立レシピの企画を立ち上げた。しかし、あるレシピをめぐり、問題が起きる。留希子にとってはすっかり身についた我が家の味だったが、そこには品川家の大切な歴史が刻まれていた。
一方、昭和二年、品川料理教習所の台所では、女中奉公に来て半年のしずえが西洋野菜のセロリーと格闘していた。
料理学校の歴史をつなぐレシピを巡る、胃も心も温まる家族小説。


二つの時代を行きつ戻りつしながら描かれる、一族の物語である。だが、それだけではなく、それぞれの時代に生きている女性の日々の様子や胸の裡の葛藤が、丁寧に描かれていてとても生き生きしている。時代によって常識も移り変わり、現代の尺度では測れないことごともあるが、その時代に生きた人の手で書かれたものに触れると、まるで隣にいるかのように伝わってきて、現代を生きて抱える悩みにも寄り添ってくれるようにも感じられて胸が熱くなる。おいしいもののことを考えるとき、人はだれしもやさしくなるのだと思わされる一冊でもあった。

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