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十の輪をくぐる*辻堂ゆめ

  • 2021/02/10(水) 09:50:08


スミダスポーツで働く泰介は、認知症を患う80歳の母・万津子を自宅で介護しながら、妻と、バレーボール部でエースとして活躍する高校2年生の娘とともに暮らしている。あるとき、万津子がテレビのオリンピック特集を見て「私は…東洋の魔女」「泰介には、秘密」と呟いた。泰介は、九州から東京へ出てきた母の過去を何も知らないことに気づく―。


東京で開催される二つのオリンピックを絡めた人間物語だと思った。一度目のオリンピックの時代、働いていた繊維工場でバレーボールをしていた晴れやかな記憶と育てにくい息子を抱えて苦労した記憶が、年月を経て認知症を発症した現在、二度目のオリンピックを前にして断片的によみがえり、万津子の心はふたつの時代を行き来している。息子の泰介は、母の特訓によりバレーボールにのめり込み、大学で同じクラブの由佳子と出会って結婚し、娘の萌子は、高校バレーで活躍し、オリンピック代表に選ばれることも夢ではない。オリンピックが重要なカギであることは間違いないが、佐藤家という家族、そのひとりひとりがどう生きるかを問いかける物語でもあるように思う。人間ってそんなに簡単に変われないよな、と思うところもあるが、全体的には充実したストーリーだった。自分の居場所を認められることの大切さを思わされる一冊でもあった。

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