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日没*桐野夏生

  • 2021/04/14(水) 16:13:58


小説家・マッツ夢井のもとに届いた一通の手紙。それは「文化文芸倫理向上委員会」と名乗る政府組織からの召喚状だった。出頭先に向かった彼女は、断崖に建つ海辺の療養所へと収容される。「社会に適応した小説」を書けと命ずる所長。終わりの見えない軟禁の悪夢。「更生」との孤独な闘いの行く末は――。


これ以上ないと思われる絶望の果てには、信じられないがさらなる絶望が待っている。そんな気鬱に苛まれながら読み進んだ。日常の些細な悩みや葛藤と、何とかつき合いながら、普通に暮らしている小説家のマッツ夢井のもとにある日届いたブンリンからの召喚状。不審に思いながらも、ちょっと行ってくるか程度の心構えで出向いた先は、療養所跡に作られた矯正施設だった。理不尽に塗れ、抗い、打ちのめされ、考え、想像をめぐらし、何とか生き延びようと抵抗を試みる姿に、きっとどこかから手が差し伸べられるはず、とわずかな希望を抱きながらなおも読み進む。だが――。ここまで極端でなくても、現代社会において、その兆しが全くないかと問われたら、自信をもってないとは答えられない。それが、得体の知れない怖さを助長している。叫び出したくなるような一冊である。

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