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つまらない住宅地のすべての家*津村記久子

  • 2021/06/14(月) 18:25:03


とある町の、路地を挟んで十軒の家が立ち並ぶ住宅地。
そこに、女性受刑者が刑務所から脱走したとのニュースが入る。
自治会長の提案で、住民は交代で見張りをはじめるが……。

住宅地で暮らす人間それぞれの生活と心の中を描く長編小説。


冒頭に住宅地の見取り図と家族構成の一覧がのせられているが、初めのうちは、誰かが登場するたびに、どこの家の誰なのか覚えられずに、最初に戻って確かめながら読んでいたので、多少の面倒くささはあったが、次第に把握できてくると、家族や人物それぞれの特徴が起ち上がってきて、ただの一覧から、生きて生活する人々になり、ストーリーに入り込めるようになった。外側から見れば、どこにでもあるつまらない住宅地に見えるかもしれないが、実情はまったくつまらなくなどなく、さまざまな問題を抱え込む人々の集まりなのがわかる。お互いに詮索しあわなければ、つまらない住宅地のなかの一軒一軒でしかないものが、一人の逃亡犯の存在によって、互いのことを少しずつ知ることになり、それが存外厭ではないことにも気づかされるのが、読んでいても不思議な感覚である。俄かに「実(じつ)」を持ち始めたような感覚とでも言ったらよいのか。ものすごく濃いコーヒーを飲んだ後のような読後感でもある。濃密な読書時間をくれた一冊だった。

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