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臨床の砦*夏川草介

  • 2021/08/06(金) 16:40:06


緊急出版!「神様のカルテ」著者、最新作

「この戦、負けますね」
敷島寛治は、コロナ診療の最前線に立つ信濃山病院の内科医である。一年近くコロナ診療を続けてきたが、令和二年年末から目に見えて感染者が増え始め、酸素化の悪い患者が数多く出てきている。医療従事者たちは、この一年、誰もまともに休みを取れていない。世間では「医療崩壊」寸前と言われているが、現場の印象は「医療壊滅」だ。ベッド数の満床が続き、一般患者の診療にも支障を来すなか、病院は、異様な雰囲気に包まれていた。
「対応が困難だから、患者を断りますか? 病棟が満床だから拒絶すべきですか? 残念ながら、現時点では当院以外に、コロナ患者を受け入れる準備が整っている病院はありません。筑摩野中央を除けば、この一帯にあるすべての病院が、コロナ患者と聞いただけで当院に送り込んでいるのが現実です。ここは、いくらでも代わりの病院がある大都市とは違うのです。当院が拒否すれば、患者に行き場はありません。それでも我々は拒否すべきだと思うのですか?」――本文より


令和三年の年明けからひと月あまりのコロナ対応最前線を描いたドキュメント小説である。涙なくして読めない。医療現場の苛烈さは、想像以上のすさまじさで、医療従事者の方々の、死をも覚悟した奮闘ぶりに、いくら言葉を尽くしても足りないほどの感謝の気持ちをささげたい。それとは裏腹に、行政の切迫感のなさには、地団太を踏みたくなるほどのいら立ちともどかしさを覚える。現場の状況をあまりにも解っていなさすぎて、哀しくすらなる。本作は、一旦小康状態になった所で終わっているが、現在の状況を見れば、医療現場のさらなる過酷さは推して知るべしであり、わが身の危険ももちろんだが、現場の医療者のみなさんの安全を祈らずにはいられない。いま読むべき一冊だと思う。

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