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婿どの相逢席*西條奈加

  • 2021/10/13(水) 07:00:47


小さな楊枝屋の四男坊・鈴之助は、相思相愛のお千瀬の生家、大店の仕出屋『逢見屋』にめでたく婿入り。誰もが羨む逆玉婚のつもりが……

「鈴之助、今日からはおまえも、立場上は逢見屋の若主人です。ですが、それはあくまで建前のみ。何事も、最初が肝心ですからね。婿どのにも、しかと伝えておきます」
鈴之助の物問いたげな表情に応えてくれたのは、上座にいる義母のお寿佐であった。
「この逢見屋は代々、女が家を継ぎ、女将として店を差配してきました。つまり、ここにいる大女将と、女将の私、そして若女将のお千瀬が、いわばこの家の主人です」(本文より)

与えられた境遇を受け入れ、商いの切り盛りに思い悩むお千瀬を陰で支える鈴之助。
“婿どの"の秘めた矜持と揺るぎない家族愛は、やがて『逢見屋』に奇跡を呼び起こす……。


江戸の世に、代々娘が女将を受け継ぐ大店は異例と言えるのではないだろうか。それゆえに起こる理不尽や懊悩もまたあり、ひとりの人間の一生を変えてしまうことにもなりかねない。とは言え、そこを守り通そうとする矜持もまた大切なのである。板挟みになることも多々あり、悩ましい。そんな大店の仕出し屋「逢見屋」に婿入りした鈴之助の日々の物語である。自ら認める頼りない男でありながら、最愛の妻・千勢や家族のことを思い、僅かずつではあるが自らができることを積み重ねるうちに、新しい風となり、逢見屋にも変化が現れているように思われる。夫婦仲好く労わりあっていれば、この先も何とかなると心強くさせてくれる一冊でもある。

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