fc2ブログ

屋根裏のチェリー*吉田篤弘

  • 2021/10/20(水) 16:29:42


もういちど会いたいです

都会のはずれのガケの上にある古いアパート。
その屋根裏にひっそり暮らしている元オーボエ奏者のサユリ。
唯一の友だちは、頭の中にいる小さなチェリー。

「流星新聞」の太郎、定食屋〈あおい〉の娘のミユキさん、鯨オーケストラの元メンバーたち……
と個性的で魅力的な登場人物が織りなす待望の長編小説――。

『流星シネマ』と響き合う、愛おしい小さな奇跡の物語。


ここにいない人のことばかり考えてしまう。屋根裏部屋に引きこもっているサユリさんは、自分にしか見えないチェリーの声を友として、日々をやり過ごしている。忘れられないこと、忘れたいこと、思い出せないこと、忘れてしまったこと。過去に置き去りにしきれないそれらの事々で、サユリさんは飽和状態だったように見える。そこに舞い込んだ、二百年前に川をさかのぼってきたクジラの骨が見つかり、復元作業が始まっているというニュース。そして、サユリさんがオーボエを吹いていた鯨オーケストラの名前の由来を知るために、長谷川さんに会いに行ったり、オーケストラ時代にインタビューされた、流星新聞の太郎さんとまた出会ったり。新しい風が、少しずつ吹き込んで、気持ちを前に向かせていく。時間や空間をまたいで、遥か彼方の想いがつながっていく。いま目の前にいる人のことも、考えられるようになっていく。極目の前のことが描かれているのに、遥かな旅をしてきたような読後感の一冊である。

この記事に対するトラックバック

この記事のトラックバックURL

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

この記事に対するコメント

この記事にコメントする

管理者にだけ表示を許可する