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インドラネット*桐野夏生

  • 2021/12/17(金) 07:27:48


この旅で、おまえのために死んでもいい

平凡な顔、運動神経は鈍く、勉強も得意ではない――何の取り柄もないことに強いコンプレックスを抱いて生きてきた八目晃は、非正規雇用で給与も安く、ゲームしか夢中になれない無為な生活を送っていた。唯一の誇りは、高校の同級生で、カリスマ性を持つ野々宮空知と、美貌の姉妹と親しく付き合ったこと。だがその空知が、カンボジアで消息を絶ったという。空知の行方を追い、東南アジアの混沌の中に飛び込んだ晃。そこで待っていたのは、美貌の三きょうだいの凄絶な過去だった……


読みながらまず思ったのは、こんなに劣等感まみれで打たれ弱い青年が、カンボジアという混迷の国へ、なんの予備知識もなく放り込まれて、これほど順応できるのか、ということだった。何もかもが嫌になっている時期に、親友(と思っていた)の父親の死を知り、葬儀に参列したところから、もう巻き込まれていたのだ。遭遇しただれもかれもが、晃をだまし、空知を探させようと企てていようとは、まるで狐につままれたようではあるが、感情が負に向かっているときには、アリジゴクにつかまるように、巻きこまれていくのかもしれない。空知の状況も、晃の気持ちも、純粋で切ないものではあるが、辿り着くまでの過程に比べて、ラストが拍子抜けの感が否めない。壮絶な目に遭ってきたのは判るが、ハッピーエンドは望めなくとも、もっと他の結末はなかったのだろうか。思いはさまざまあるが、異国の空気を感じられるような一冊でもあった。

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