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闇に香る嘘*下村敦史

  • 2021/12/21(火) 18:24:43


村上和久は孫に腎臓を移植しようとするが、検査の結果適さないことが分かる。和久は兄の竜彦に移植を頼むが、検査さえも頑なに拒絶する兄の態度に違和感を覚える。中国残留孤児の兄が永住帰国をした際、既に失明していた和久は兄の顔を確認していない。27年間、兄だと信じていた男は偽者なのではないか――。全盲の和久が、兄の正体に迫るべく真相を追う。有栖川有栖氏が「絶対評価でA」と絶賛した第60回江戸川乱歩賞受賞作!


全盲の主人公、中国残留孤児、小児の腎臓移植と、深刻な要素が多く盛り込まれているが、そのすべてが、この物語にとってはなくてはならないものだったように思う。戦争による悲惨で過酷な体験、引き上げ後の境遇、闇に閉ざされた絶望と焦燥、そして疑心暗鬼。心の在りようによって、物事の捉え方がこれほど変わるものかということも思い知らされる。種明かしされるまでは、真相にまったく思い至らなかった。それほどに自然なストーリー展開であったということである。読み応えのある一冊だった。

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