fc2ブログ

琥珀の夏*辻村深月

  • 2022/04/18(月) 06:43:15


大人になる途中で、私たちが取りこぼし、忘れてしまったものは、どうなるんだろう――。封じられた時間のなかに取り残されたあの子は、どこへ行ってしまったんだろう。

かつてカルトと批判された〈ミライの学校〉の敷地から発見された子どもの白骨死体。弁護士の法子は、遺体が自分の知る少女のものではないかと胸騒ぎをおぼえる。小学生の頃に参加した〈ミライの学校〉の夏合宿。そこには自主性を育てるために親と離れて共同生活を送る子どもたちがいて、学校ではうまくやれない法子も、合宿では「ずっと友達」と言ってくれる少女に出会えたのだった。もし、あの子が死んでいたのだとしたら……。
30年前の記憶の扉が開き、幼い日の友情と罪があふれだす。

圧巻の最終章に涙が込み上げる、辻村深月の新たなる代表作。


ミステリ要素もあるが、それよりも大事にされているのは、心理面だという印象である。特定の思想に呑み込まれていく心の動きや、人間関係における力関係や忖度、本音と建て前。さまざまな形での心の動きが、とても丁寧に描かれていて、思わず自分自身もその流れに呑み込まれてしまいそうになり、その危うさにどきっとさせられる。結果的に何を信じればいいのかを見失っても、人が人を想う真心からの気持ちは、必ず届くのだと思わせてくれる。根っからの悪人がいないことが、却って背筋がうっすらと寒くなる歪みを感じさせる一冊でもあった。

この記事に対するトラックバック

この記事のトラックバックURL

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

この記事に対するコメント

この記事にコメントする

管理者にだけ表示を許可する