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わたしが消える*佐野広実

  • 2022/07/23(土) 19:16:52


第66回江戸川乱歩賞受賞作!
綾辻行人氏(選考委員)、推薦。
「序盤の地味な謎が、物語の進行とともに厚み・深みを増しながら読み手を引き込んでいく」

元刑事の藤巻は、交通事故に遭い、自分に軽度認知障碍の症状が出ていたことを知り、愕然とする。離婚した妻はすでに亡くなっており、大学生の娘にも迷惑はかけられない。
途方に暮れていると、当の娘が藤巻を訪ね、相談を持ちかけてくる。介護実習で通っている施設に、身元不明の老人がいる、というのだ。その老人は、施設の門の前で放置されていたことから、「門前さん」と呼ばれており、認知症の疑いがあり意思の疎通ができなくなっていた。
これは、自分に課せられた最後の使命なのではないか。そう考えた藤巻は娘の依頼を引き受け、老人の正体を突き止めるためにたった一人で調査に乗り出す。
刻一刻と現れる認知障碍の症状と闘いながら調査を続ける藤巻は、「門前さん」の過去に隠された恐るべき真実に近づいていくーー。

残された時間で、自分に何ができるのか。
「松本清張賞」と「江戸川乱歩賞」を受賞した著者が描く、人間の哀切極まる社会派ミステリー!


自らの認知症の疑いに悶々としながら、娘の頼みで、介護施設の門前に遺棄された認知症の老人の身元を調べる、元刑事の藤巻の姿が描かれている。門前さんと名づけられた人物の身元を探るほどに、過去の怪しさが浮き彫りにされ、警察機構や政治家にまで及ぶ疑惑が明らかにされていく。誰が誰を利用し、利用されたのか。闇が深すぎて背筋が凍る。似たようなコントロールはおそらく日々何らかの形で行われているものと思われ、何を信じればいいのか疑心暗鬼に囚われる一冊でもある。
とは言え、藤巻家の安寧は保たれたと言っていいかもしれないのは、一筋の光明である。

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