fc2ブログ

逃亡くそたわけ*絲山秋子

  • 2005/08/23(火) 14:01:50

☆☆☆・・



 逃げるのに、理由なんていらない。         

 誰も知らないところに行かなくちゃいけない。今すぐ。今すぐ。
 あたしは見えないものに追い立てられていた。
 「なごやん、車持っとらんと?」
 「あるけど・・・・・」
 「一緒に逃げよう。もうそれしかなかよ」
 「家まで車で送ってやるよ。それから俺は車戻して病院に帰る」
 「嫌ったい」
 「子供みないなこと言わないの」
 けれど、あたしが見つめるとなごやんは目を伏せてしまった。
 しばらく、そのまま両膝に手をついてあぐらをかいていたが、
 やがて深い溜息をついた。
 「ほんとうに逃げるんだ?」
 「ほんとくさ」(本文より)
                (帯より)

福岡の精神病院に躁鬱病で入院している21歳の花には幻聴がある。≪亜麻布二十エレは上衣一着に値する≫という意味不明の――のちにこれは資本論の一節だと判るのだが――男の声が耳から離れないのだ。 
今は躁状態の花は薬漬けの生活に嫌気がさして逃げることに決める。ちょうどその場に居合わせた鬱病のなごやんを道連れに、九州を一路南下するおんぼろルーチェでの旅に出る。
なごやんは生まれ故郷の名古屋を嫌悪し、慶応大学入学を機に憧れの東京に出て、卒業してNTT関連の企業に就職するが、転勤で福岡にやってきたのだった。

逃げて逃げて逃げて道なき道をも逃げて、だんだん何から逃げているのかわからなくなってもとにかく逃げつづける。
逃げ切れるなどとはもとより思っていないのに、憑かれたようにただ南へ向かう。

花が逃げたのは病院からだけではない。精神病だとわかった途端に逃げ出したモトカレや友人たち、自分の頭のなかでうるさく喚きたてる何人もの声・声・声、そしてなによりもそんな自分自身から逃げたかったのだ。きっと。
物語は二人が南へ向かったままで終わる。これからのことはわからないまま。
これから二人はどうなるのか。未来は明るいのか暗いのか。

この作品を読むには少しばかりタイミングが悪かったかもしれない。違うときに読んだらまた違った風に眺められたかもしれない。


V
V

TB
本のことども
とんとん・にっき

この記事に対するトラックバック

この記事のトラックバックURL

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

◎◎「逃亡くそたわけ」 絲山秋子 中央公論新社 1365円 2005/2

 なんかあれである。サザエさんのオープニング見てたら、おお今日から変わった!鹿児島じゃん!って、おお桜島じゃないか!おお磯庭園じゃないか!おお天文館じゃないか!おおおおおおおおうぉー!我が家じゃないか!!!ってぐらい感激するようなご当地小説である。まあ、

  • From: 「本のことども」by聖月 |
  • 2005/08/30(火) 09:48:35

絲山秋子のことども

  ◎ 『イッツ・オンリー・トーク』◎◎ 『海の仙人』◎◎ 『袋小路の男』◎◎ 『逃亡くそたわけ』

  • From: 「本のことども」by聖月 |
  • 2005/08/30(火) 09:49:20

絲山秋子の「逃亡くそたわけ」を読んだ!

著者の絲山秋子は、1966年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。「イッツ・オンリー・トーク」で文学界新人賞、「袋小路の男」で川端康成文学賞、「沖で待つ」で第134回芥川賞を受賞。と経歴にあります。この作品「逃亡くそたわけ」は、2005年2月25日初版発行とあ

  • From: とんとん・にっき |
  • 2007/06/26(火) 22:18:43

この記事に対するコメント

この記事にコメントする

管理者にだけ表示を許可する