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二百年の子供*大江健三郎

  • 2005/11/15(火) 18:02:22

☆☆☆・・



ノーベル賞作家が約束していた、「夢を見る人」の、タイムマシンの物語
 三人の子供たちが、この国の過去と未来で出会う、悲しみと勇気、
 ゆったりしたユーモア、時をこえた友情。
 ――そして「新しい人」が浮かびあがる。
        (帯より)

 私たちは(子供から老人まで)いまという時を生きています。
 私たちが経験できるのは、いつもいまの世界です。
 それでいて、過去の深さと未来からの光にひきつけられます。
 人間だけが、そのようないまを生きるのです。
 そして、そのことを意識しないでも、誰より敏感に知っているのは子供です。
 私は小説家として年をとるうち、いまのリアルさと不思議さを
 書きたいと思いました。家族や小さい友人たちに約束もしました。
 そして、私の中の子供と老人が力をつくして、
 そのための文章をみがきました。
 時間の旅をしっかりやりとげる子供たち(と、「ベーコン」という犬)
 を作り出しもしました。永い間、それもかつてなく楽しみに準備しての、
 私の唯一のファンタジーです。   大江健三郎
     (見返しより)


「千年スダジイ」のうろで眠り、強く願うと、行きたい時に行くことができるという言い伝えを聞いた「三人組」は、のちに「夢見る人」のタイムマシンと名づけたそのうろで眠っておばあさんが亡くなる前の病室へ行ったのだった。
そしてそれが彼らの冒険の始まりであった。
「三人組」とは、長男の真木・その妹のあかり・その弟の朔。
真木は少し知恵が遅れていてからだが弱いという障がいをもっているが、澄んだ心をもち、ときとしてこれ以上ないくらいのタイミングで的を射た言葉をつぶやくのだった。そんな兄を、妹弟はいたわりながらも尊敬し、大切に思っている。

アサ叔母さんの描いた絵のなかの過去の時代へ旅してその時代の同世代の少年と知り合ったり、未来へもちょっぴり行ってみたりするうち、無力感に苛まれたりもするのだが、そんなときに、父の
 「前略 私らはいまを生きているようでも、いわばさ、
 いまに溶けこんでる未来を生きている。
 過去だって、いまに生きる私らが未来にも足をかけてるから、
 意味がある。思い出も、後悔すらも・・・・・ 後略」

という語りかけによって、前向きに考えられるようにもなるのだった。

著者の家族が登場人物たちのモデルとなっていることは明らかである。そう思うときに尚更、大きな包容力や思いやりの気持ち、相手を尊重する心がじんわりとこちらにも染みわたってきて胸をあたたかくしてくれる。

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再掲 ◎「二百年の子供」 大江健三郎 中央公論新社 1400円 2003/11

大江健三郎という作家、さほど多くの作品を読んだことはないのだが、芥川賞受賞作家の本を追い求めていた若い時分、いくつかの作品を読んだことがある。中でも一番印象に残っているのが『万延元年のフットボール』。っていうか、結構丁寧に読むことができた上、面白く感じた

  • From: 「本のことども」by聖月 |
  • 2005/11/16(水) 07:09:55

この記事に対するコメント

こんにちは

こういう作品を今の時期に読む。
なんかそういうのに惹かれてTBさせていただきました。
私も最近ミステリーに疲れてきた部分がなきにしもあらず。
山本周五郎あたりを読もうかと思っている昨今です(^.^)未読の文豪なのですが。

  • 投稿者: 聖月(みづき)(^.^)
  • 2005/11/16(水) 07:13:24
  • [編集]

なんとなく手に取って

実は大江健三郎初体験でした。
難しそう、という先入観で敬遠していました。

この作品も、子どもが主人公のファンタジーとはいえ
けっして子ども向けではなく、深いものがありましたね。
たぶんすべては読み取れてはいないのだと思いますけれど。

  • 投稿者: ふらっと
  • 2005/11/16(水) 07:41:47
  • [編集]

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