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約束の冬 上下*宮本輝

  • 2004/01/11(日) 21:19:01

☆☆☆☆・


味わい深い一冊だった。

著者自身が あとがきで 自分のそばにいてくれたらいいと思える人物ばかりを描いたと言うだけあって 登場人物の一人一人が たいそう魅力的である。

キーワードは飛ぶ蜘蛛。
冬が来る前の 風のないうららかな日を選び 小さな蜘蛛たちは 自らの尻から細い糸を吐き出し それに掴まるようにして 微かな風に乗って空を飛ぶという。ほとんどは 糸が絡まり地に落ちるか 運良く舞い上がれても鳥に食べられてしまうが 運がいいものは 遥か2千キロ以上も飛ぶのだという。
蜘蛛が飛ぶ情景をそこここに散りばめながら 物語は進む。
いくつかの約束を果たそうとする者たちを巡って。

人は いつの日も 果たそうとして、あるいは果たせるはずがないのを知りながら 約束をしてしまうものではないだろうか。そして 良かれ悪しかれ その約束に縛られる。

10年前、引越してきたばかりの7歳年上の女性に 「10年後一緒に蜘蛛が飛ぶのを見よう」と手紙を渡した15歳の少年・見知らぬ少年から不意に手紙を渡された女性・少年の義理の父・少年の実の父の父・女性の幼なじみ。
それぞれが それぞれの約束を果たすために生きているのだ。
約束を果たそうとすることそのものが 生きる ということなのかもしれない。

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