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夏帽子*長野まゆみ

  • 2006/07/05(水) 17:37:31

☆☆☆☆・

夏帽子(A STRAW HAT) 夏帽子(A STRAW HAT)
長野 まゆみ (1994/08)
作品社

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白い夏帽子。
旅行鞄。
ひと夏かぎりの理科教師、
紺野先生が現れたとき
ぼくらの夏の扉は開かれた――。

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紺野先生は旅行鞄に石の標本を持っている。赴任した先々で拾った石を蒐集しているのだ。
「また、ひとつ標本が増えたよ。」
駅舎は三角の屋根を中心にしたシンメトリ。風向計がくるくるとせわしなく回転していた。南から強い風が吹いてきた。
「夏だな。」
先生はひとこと呟いて、列車に乗った。走りだした車窓から、白い夏帽子をふる。生徒たちはもうだいぶ日焼けした腕を伸ばして手をふる。
「今度は何処の学校へ行くのだろうね。」しばらくそのことが話題にのぼった。  ――本文より
  ――帯より


臨時の理科教師・紺野先生と一緒に過ごす連作短編集である。
あちこちの学校――なぜかこじんまりした学校が多い――に臨時に理科を教えに行く紺野先生は、いつも夏帽子をかぶっている。理科の教師らしく、不思議な実験や現象をみせてくれたり、野や山へ出かけてさまざまなことを教えてくれる。ほんの短いつきあいになるにもかかわらず どこででも子どもたちにあたたかなものを残していく。
どこといって不思議なところのない紺野先生なのだが、なぜか普通の人間の大人ではないような何かを感じてしまう。子どもたちや そのほかの生きものたちもたぶん同じように感じるのだろう。さやさやと吹きすぎる風のように心地好い物語だった。

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