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無痛*久坂部羊

  • 2006/11/08(水) 21:05:14

☆☆☆☆・

無痛 無痛
久坂部 羊 (2006/04)
幻冬舎

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見るだけですぐに症状がわかる二人の天才医師、「痛み」の感覚をまったく持たない男、別れた妻を執拗に追い回すストーカー、殺人容疑のまま施設を脱走した十四歳少女、そして刑事たちに立ちはだかる刑法39条―。神戸市内の閑静な住宅地で、これ以上ありえないほど凄惨な一家四人残虐殺害事件が起こった。凶器のハンマー他、Sサイズの帽子、LLサイズの靴痕跡など多くの遺留品があるにもかかわらず、捜査本部は具体的な犯人像を絞り込むことができなかった。そして八カ月後、精神障害児童施設に収容されている十四歳の少女が、あの事件の犯人は自分だと告白した、が…。
罪なき罰と、罰なき罪。悪いのは誰だ?


冒頭から目を背けたくなるような凄惨な場面である。教師一家が惨殺され、その死体は 妻が投稿し 掲載された夫自慢の新聞記事になぞらえるように並べられていた。そしてSサイズの帽子とLLサイズの靴跡という妙にアンバランスな遺留品。
この事件のあと、遠く近く取り巻くようにしてさまざまな事や人や要素が出合い 繋がり 形を現してくる。しかし、事件と犯人という形として現れてはいても、どこか釈然としないのは 心神喪失者の犯罪は罪としない という刑法39条の故なのだろうか。
外見を見るだけで症状が判るという医師・為頼と白神の歩く道の違い、心理療法士・菜見子を取り巻く人間関係、自らを教師一家殺人事件の犯人だと言うサトミ、白神医師を無条件で信頼し恩を感じる無痛症のイバラ。
消化できない数々の想いを渦巻かせて、読者は次々に起こる残虐な事件を止めることもできずに見ているしかない。ラストには希望の光も見えるかに思えるが、実は何も解決していないのかもしれないと思わせる翳りも見える。胸に重い一冊である。



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粋な提案

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無痛 久坂部羊

装画は皆川みちる(メタ・コーポレーション・ジャパン)。装幀は鈴木成一デザイン室。2003年、『廃用身』でデビュー。主な作品、04年「破裂」。外見だけで病気の徴候を見抜ける医師、為頼英介は財布を届けてくれた臨

  • From: 粋な提案 |
  • 2006/11/09(木) 18:40:32

この記事に対するコメント

あまりにどぎつい描写の連続にびっくりしました。
診断力、刑法39条の問題と読ませどころも多かったのですが・・。
衝撃的な内容に、でも途中でやめることもできず、大急ぎで読みました。

  • 投稿者: 藍色
  • 2006/11/09(木) 18:40:10
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久坂部さんなので、ある程度覚悟して読み始めたのだけれど
それでも何度か本を閉じそうになりました。
早瀬刑事の苦悩がよくわかります。
早瀬刑事も!?と一度は脱力したけれど、自力で復活してくれていてほっとしました。

  • 投稿者: ふらっと
  • 2006/11/09(木) 18:53:44
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