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風の墓碑銘(エピタフ)*乃南アサ

  • 2006/11/19(日) 20:33:21

☆☆☆☆・

風の墓碑銘 風の墓碑銘
乃南 アサ (2006/08/30)
新潮社

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東京・下町の解体工事現場から白骨死体が三つ。そして大家である徘徊老人の撲殺事件。真夏の下町を這いずり回ること二カ月あまり。中年の毒気を撤き散らす滝沢の奇妙な勘働きと、女刑事・音道貴子の大脳皮質は、「信じられない善意の第三者」でようやく焦点を結んだ。名コンビは狂気の源に一歩ずつ近づいてゆく…。


音道貴子シリーズ。しかも今回は、以前に組んだときにさんざん悩まされた、女性蔑視体質の冴えない中年刑事・滝沢と 奇しくもコンビを組むことに。滝沢は、刑事としてはベテランで 学ぶべきことも多いが、貴子としてはどうにも付き合いづらい相手である。滝沢にとってもそれは同様である。事件の捜査のゆくえはもちろん、捜査の間中行動を共にするそんな二人の様子にもリアルな泥臭さや人間味があって興味を惹かれる。
実際に滝沢のような典型的な男社会人間と組まされた貴子の戸惑いもよくわかるし、私生活ではさまざまな悩みを抱えながらも仕事場では自分を律しきる 堅苦しいとも受け取られかねない貴子を扱いかねる滝沢の戸惑いも手に取るようにわかる。読者にとっては、二人の不器用さがもどかしくもあり、ときとして背中を押してやりたくもなるのだが、このもどかしさにこそ現実味があるようにも思える。
貴子を心強くする存在だった女性鑑識課員・奈苗の職場以外の女としての部分が招いた事件では 幻滅を味わうことになるが、それこそが貴子の硬質さを物語るものでもあるだろう。そのときの滝沢の態度には胸を打たれる。
人間模様と共に事件も混沌としているかに見えたのだが、丁寧な観察とふとした閃きが、一見無関係だったいくつかの事件を繋ぎ、一挙に解決へと向かわせるあたりは、興奮でゾクリとさせられる。

私的にも公的にも、音道貴子の物語は、まだまだ終わりそうもない。

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「風の墓碑銘」 乃南アサ

音道貴子シリーズの最新作。このシリーズは鉄板で面白く、宮部みゆきの作品のように安

  • From: あらまの日々 |
  • 2006/11/30(木) 15:31:12

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