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真鶴*川上弘美
- 2006/11/27(月) 07:12:51
☆☆☆☆・ 失踪した夫を思いつつ、恋人の青茲と付き合う京は、夫、礼の日記に、「真鶴」という文字を見つける。“ついてくるもの”にひかれて「真鶴」へ向かう京。夫は「真鶴」にいるのか? 『文学界』連載を単行本化。 真鶴
川上 弘美 (2006/10)
文藝春秋
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淡々と怖い物語である。「ついてくるもの」の存在を、まずそのまま受け容れてしまっているところから 語り手である京(けい)の心のありようは尋常ではない。すでに、いかほどかどこかへと連れ去られているようでもある。理由も告げず唐突に失踪した(と思い込もうとしてきた?)夫を思い切れず、それなのにほかの男にも想いを預け、内面は寄せては返す波のように揺れながら日々を過ごし、輪郭だけは普通の大人として日常を送る。揺れ具合、にじみ具合が読者を不安定な気持ちにさせる。
そして、夫・礼との間のひとり娘・百(もも)との関係がもうひとつのテーマなのだろう。母親と娘だからこそより強く感じるのだろう 微妙な近さと遠さを揺れる関係性。自らの胎内に子を宿し、産み出した者にはなじみの感覚かもしれないが、言葉にされて初めて「そうだったのか」と腑に落ちる心地もするのである。
心の中で揺れる波の狭間を描くのが巧い川上さんである。
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真鶴 川上弘美
装丁は大久保明子。装画は高島野十郎「すもも」(画像との違いは文末で補足)。「文学界」2005年2月号から2006年5月号初出。主人公で語り手の柳下京(やなぎもとけい)は、母と娘、百(もも)との三人暮らし。夫
- From: 粋な提案 |
- 2006/11/29(水) 04:03:12
真鶴 川上弘美 文藝春秋社
昨日書いた「東京公園」は、読んでいる間中、ずっと心おだやかでいられた。しかし、この「真鶴」は、なんとも疲れた。いや、疲れた、というのとはちょっと違うのかな。消耗した。あれ?一緒か。この主人公の京には、ずっと一人の女が「ついて」くる。漢字をあてると「憑いて
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- 2006/12/02(土) 01:27:05
川上弘美【真鶴】
ひらがなの多い文章。ちょっと読みにくい。たとえば、≪ 真鶴の夜の海の、さざなみのたつおもてに、燃えさかる船はしずんでいった。 ≫「さざ波の立つ面に」でもいいのに、と思ったが、あえて読みにくく書いて
- From: ぱんどら日記 |
- 2006/12/15(金) 11:31:00
川上弘美「真鶴」
ここかしこ つかずはなれず きおくれず 以前このブログにも「グリーン車で川上弘美にナンパされて 」などという大胆不敵なるタイトルで書いたとおり、彼女の文に久しく出会っておらぬところをばったり出くわして、その後むずむずと無性に何かを読みたくなって、この
- From: 空想俳人日記 |
- 2007/05/31(木) 06:59:43
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この記事に対するコメント
境界があいまいな世界、気持ちに翻弄されました。でもやっぱり惹かれて止まりませんでした。
“揺れ具合、にじみ具合”という表現が絶妙です。
川上作品に共通するキーワードが この「揺」と「にじみ」と言ってもいいかもしれませんね。
独特の言葉の選び方も魅力的でした。
ほんと、淡々と怖い物語でした。
これ、男の人が読んだらどう思うのかな、と思ったり。特に妊娠・出産の部分のリアリティは、男の人の目にどう写るのかな、と思ったりしました。逃げたくなりませんかね?(爆)
逃げ出したくなるかもしれませんねぇ。
少なくとも目を逸らさずにはいられないかもしれません。
女にとしては靄のようだったものに形を与えられた心地でした。