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サウスバウンド*奥田英朗

  • 2005/12/08(木) 18:32:06

☆☆☆☆・



 型破りな父に翻弄される家族を、少年の視点から描いた、長編大傑作。
 21世紀を代表する新たなるビルドゥングスロマン、誕生!

 父は元過激派だ。
 小学校六年生になった長男の僕の名前は二郎。
 父の名前は一郎。誰が聞いても「変わってる」と言う。
 乳が会社員だったことはない。物心ついたときからたいてい家にいる。
 父親とはそういうものだと思っていたら、小学生になって級友ができ、
 ほかの家はそうではないらしいことを知った。
 父はどうやら国が嫌いらしい。昔、過激派とかいうのをやっていて、
 税金なんか払わない、無理をして学校に行く必要などないとか
 よく言っている。家族でどこかの南の島に移住する計画を
 立てているようなのだが・・・・・。
           (帯より)


二部構成になっており、第一部は中野区の貸家に住まい、上原二郎と妹の桃子は普通に区立の小学校に通う毎日が描かれている。仲のいい友人たちやちょっぴり気になるクラスの女子をうかがったりする どこにでもいる六年生をやりながら、中学生の不良に絡まれ止むに止まれず喧嘩をしたり、居候することになった父の知り合いのアキラおじさんに頼まれて 怪しげなお使いをしたり。
父は働きもせずいつも家でゴロゴロしている。しかも、どうも「コウアン」とか警察とか税務署とかに目をつけられているらしい。
特別になんかなりたくないのに、上原家はなんとなく周りから胡散臭い目で見られ、地域からも浮いているようなのが二郎としては落ち着かない。

第二部は一転して 舞台は沖縄・西表島である。
アキラおじさんが中野で起こした事件に関して父も警察で取り調べられ、派閥の内輪揉めやらなにやらに嫌気がさした父が半ば強引に引越しを決めたのだった。
ここでの父は中野時代とは人が変わったように農作業や漁に精を出し、二郎も見直すほどだったのだが、やはり周りは放っておいてはくれないのだった。父は楽園を求めているだけなのに、リゾート開発の反対派の急先鋒と決めつけられ、町議や開発会社の風当たりが俄に強くなり、マスコミもそれを煽って騒動になってしまう。しかしそんなことに屈する父ではなかったのだった。
八重山の自然の豊かさと人々の気質の豊かさあたたかさは二郎や桃子、一度は東京に残ったが後を追ってやってきた長女の洋子を人間的にひと回りもふた回りも成長させたのだ。

誰にも統治されず地図にも載らないという楽園・パイパティローマ。
それを信じている限りは人は人として間違わずにいられるような気がしてならない。

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ララピポ*奥田英朗

  • 2005/11/04(金) 17:28:49

☆☆☆・・



 いや~ん、お下劣。
 ※紳士淑女のみなさまにはお薦めできません。(作者)

 「しあわせ」って何だっけ? 選りすぐりの負け犬たち、ここに集合!

 勝ち組みなんて、いない。
 神はなぜ、この者たちに生を与えたもうたのか?

 対人恐怖症のフリーライター・杉山博(32歳)
 AV/風俗専門のスカウトマン・栗野健治(23歳)
 専業主婦にして一応AV女優・佐藤良枝(43歳)
 NO!と言えないカラオケBOX店員・青柳光一(26歳)
 文芸コンプレックスの官能小説家・西郷寺敬次郎(52歳)
 デブ専DVD女優のテープリライター・玉木小百合(28歳)
   (帯より)


帯の惹句にあるとおり全編まったくもってお下劣な6つのオムニバス。下ネタのオンパレードである。確かに食傷気味である。が、これだけあっけらかんと明るく描かれると苦笑するほかないではないか。まったく馬鹿らしくて「しっかりしろーーっ!!」と登場人物たちに渇を入れたくなる衝動を抱えつつ、とてつもなくうすら淋しく哀しい気分にさせられる一冊でもある。
タイトルの『ララピポ』のわけがわかっただけでもよしとしよう。

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東京物語*奥田英朗

  • 2005/10/06(木) 21:46:06

☆☆☆・・



1959年に名古屋で生まれた田村久雄の1978年から1989年までの物語。

名古屋が好きになれず、東京を夢見た田村久雄は、大学受験に失敗すると、翌年に備えて予備校に通うべく東京に出る。翌年、大学に入学するが、父の会社が倒産し 中退することになる。そして、「新広社」という小さな広告代理で働きはじめる。
時代背景を思わせるできごとがいつも物語の背景にあり、当時の東京の浮かれ模様を懐かしく苦々しく思わされたりもする。
東京物語 というよりも田村久雄物語のような気がするが、やはり名古屋に暮らす田村久雄ではなく、東京で闘う田村久雄の物語なのだろう。


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真夜中のマーチ*奥田英朗

  • 2005/09/09(金) 17:45:47

☆☆☆・・



 泥棒がいっぱい。
 獲物は十億円。男二人と美女一人+犬一匹
 目指すは完全犯罪・・・・・だったのに。

 「社長と呼べ、社長と」
 ――ヨコケンこと横山健司、青年実業家気取りのパーティー屋。
 
 「三田物産の三田と申します」
 ――ミタゾウこと三田総一郎、むっつりスケベの一流商社マン。

 「わたし、港区以外で呼吸をする気はないからね」
 ――クロチェこと黒川千恵、高飛車で強がりの元モデル。

 「Uhhh」
 ――ストロベリー、犬種ドーベルマン、勇敢で賢いクロチェの愛犬。

                                (帯より)


ヨコケンが催した出会い系パーティーで三田物産の三田と出会ったのがそもそもの始まりだった。
三田財閥の御曹司だと思い込み、一儲けしようと近づいたのだが、実は小さな鉛筆削りを作る町工場の長男で、金儲けの目論みは見事はずれたのだった。
それどころか界隈を仕切る暴力団の古谷に目をつけられる始末。だがそれが、また大儲けのチャンスに繋がるのである。そして、同じ物を狙いながらも立場を異にするクロチェと愛犬のストロベリーと出会い、タッグを組む。
冴えない三田が意外な才能を発揮したり、クロチェの弟のタケシがどうしようもないドジを踏んだり、あちこちに振り回されどたばた劇を演じ、そして__。

終わってみれば結局、損をしたのは 中国人の賭場狙いの二人組みだけだったような。
三人と一匹はもうこのまま会うことなく生きていくのだろうか。なんとなくまたどこかでひょっこりと出会って、どたばた劇を演じそうな気がする。

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イン・ザ・プール*奥田英朗

  • 2005/02/07(月) 13:01:41

☆☆☆☆・


 祝・直木賞!!
 「空中ブランコ」の伊良部は、この本から始まった。
 日本文学に、新しい必笑のキャラクターが登場!

                           (帯より)


伊良部のキャラクターは『空中ブランコ』のところで書いたとおり、とても信頼できるとか頼りになるとかいうレベルではない。
はっきり言えば、お近づきになりたくないタイプなのである。
にもかかわらず、一度その診察室である薄暗い地下の一室の扉を開けたものは、彼の醸し出す不思議な何かに捕らわれ、彼の常識を外れた行動にあっけにとられつつ巻き込まれているうちに、いつのまにか悩みが消えているのだ。

名医なのかただのろくでなしなのか。
大人になりきることがほんとうにしあわせなことなのかを考えさせられる一冊でもある。

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最悪*奥田英朗

  • 2005/01/09(日) 08:48:12

☆☆☆・・


 秀逸な群像劇にして、胸に迫る感動。
 作家性を如何なく発揮した傑作
 第13回直木賞受賞!!!

                         (文庫帯より)

『最悪』以外にタイトルのつけようがない、というのがまず第一の感想である。
小さな町工場の社長・銀行員の女性・パチンコ屋に入り浸り日銭を稼ぐ若者、同じ町で生きているこの三人の逃げ出したいこともあるがささやかな喜びもある生活が並行して描かれていき、あるところで突然とんでもない接点を持つのである。
それぞれの人物の思考と行動が、抗いようもなく裏へ裏へと迷いこんでいく過程は、読んでいても息苦しくなる。
ほんの少しだけゆっくり考える時間があれば、≪悪≫にはなっても≪最悪≫にまでは至らないのかもしれない。

ウランバーナの森*奥田英朗

  • 2004/11/05(金) 22:03:07

☆☆☆・・


1979年の軽井沢の夏の出来事の物語である。
主人公は世界に影響を与えたリバプール出身の4人組の一人だったジョン。
こう書くと 誰でもがあの有名なジョンを思い浮かべることと思うのだが、物語の最後には こう但し書きがされている。
 *この作品はフィクションであり、実在する人物
   (あるいはかつて実在した人物)とは一切関係がありません。


タイトルのウランバーナとは、サンスクリット語で苦しみという意味で、これが盂蘭盆会(うらぼんえ)と言われているのだという。
まさに、1979年の軽井沢でジョンが過ごしたお盆に起こった出来事が描かれているのがこの物語なのだ。

いくら断り書きがされていても どうしてもあのジョンを思い浮かべずにはいられなかったのだが それを別にしたとしても 充分不思議な そして癒される話だと思う。アネモネ医院で 私もマッサージを受けたいくらいだ。

マドンナ*奥田英朗

  • 2004/11/02(火) 21:59:14

☆☆☆☆・


表題作のほか ダンス・総務は女房・ボス・パティオ の5つの短編集。

どの物語も主人公は中間管理職である課長である。上と下に挟まれて企業内でも一番苦労が多いと言われるポジションである。何かと闘う日々を過ごしているのであろうと思われる。そして さぞお疲れのことだろう。
そんなお疲れの、しかし 企業戦士とも言うべき中年課長さんたちの日常の些細な心の針の振れを描いて見事だと思う。ともすれば敬遠されがちな‘オジサン’たちに愛おしささえ覚えてしまう。まんざらでもないぞ‘オジサン’と。

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邪魔*奥田英朗

  • 2004/11/01(月) 21:57:01

☆☆☆☆・



 狂おしいまでの孤独と自由。
 奥田英朗は、やっぱり凄い。

 始まりは、小さな放火事件にすぎなかった。
 似たような人々が肩を寄せ合って暮らす都下の町。
 手に入れたささやかな幸福を守るためなら、どんなことだってやる――

 ついてねえな。
 ・・・・・ついてないどころじゃねえだろう。
 ――渡辺裕輔・17歳・高校生

 夫など帰ってこなければいい。
 いっそ事故で死んでくれてもいい。
 そう考える自分を、少しも悪いとは思わない。
 ――及川恭子・34歳・主婦

 自分の感情がわからない。
 怒りでも、悲しみでもない。それはもしかしたら、
 生きていることの違和感かもしれない。
 ――九野薫・36歳・刑事

                           (帯より)


東京都下の町・本城市に暮らす、裕輔・恭子・九野を軸に、ある放火事件が引き起こした事の顛末の物語である。
傍では何とでも言える。渦中にあっては、常識とか筋道立った考えとかいうものは 何の支えにも解決にもならないのだ、ということが ひしひしと伝わってくる。裕輔の、恭子の、九野の歩きだしてしまった道は、正しいとか間違っているとか以前の 選びようのない道だったのかもしれない。その時、その人にとっては。人が道を踏み外す時の心理が 必然すぎて怖い。

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空中ブランコ*奥田英朗

  • 2004/10/18(月) 20:17:55

☆☆☆・・



表題作の他、ハリネズミ・義父のヅラ・ホットコーナー・女流作家という5つの物語の連作。

伊良部総合病院の跡取息子で精神科医の 伊良部一郎の診察室のドアを叩いた5人をめぐる物語である。
大学の同期の鼻つまみ者であり、訪れる患者たちからも 疎ましげな目を向けられる伊良部なのだが、どういうわけかこの診察室のドアを開けた途端 誰もが自分のペースを失い伊良部のペースに嵌ってしまうのである。
大人として また精神科医として信用できるのかどうなのか 訝っている間になぜか患者の抱えていた問題は解決されている。伊良部のおかげなのか?
どこをとっても魅力的とは言いかねる伊良部の魅力に嵌ったかもしれない。

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