ときどき旅に出るカフェ*近藤史恵

  • 2017/08/31(木) 16:23:18

ときどき旅に出るカフェ
双葉社 (2017-07-28)
売り上げランキング: 9,095

平凡で、この先ドラマティックなことも起こらなさそうな日常。自分で購入した1LDKのリビングとソファで得られる幸福感だって憂鬱のベールがかかっている。そんな瑛子が近所で見つけたのは日当たりが良い一軒家のカフェ。店主はかつての同僚・円だった。旅先で出会ったおいしいものを店で出しているという。苺のスープ、ロシア風チーズケーキ、アルムドゥドラー。メニューにあるのは、どれも初めて見るものばかり。瑛子に降りかかる日常の小さな事件そして円の秘密も世界のスイーツがきっかけに少しずつほぐれていく―。読めば心も満たされる“おいしい”連作短編集。


職場ではお局呼ばわりされる年齢になり、友人たちも結婚したり子どもを産んだりして価値観が少しずつ違ってきて、自分で選んだこととは言え、我が身を持て余し気味だった瑛子が主人公である。家の近くでたまたま見つけて入ったカフェ・ルーズは、偶然にもかつて職場で一緒に働いていた葛井円が営む店だった。毎月一日から八日までは休みで、円はその期間、旅行に出かけたり、メニューの試作をしたりしているらしい。海外で見つけたその土地で親しまれている料理の名前が並ぶメニューは、普通のカフェでは見慣れないものなのだった。円が心を込めて作る料理は、その思いの分もあたたかく美味しくて、瑛子のお気に入りの場所になる。職場やカフェで起こる出来事の、ほんの些細な違和感を、おいしいスイーツと円の人柄や思いやりがするすると解きほぐしていくのである。辛いこともあるし、受け容れがたいこともたくさんあるが、価値観を大らかに持てばなんてこともないのかもしれないと思わせてくれる一冊でもある。

貘の耳たぶ*芦沢央

  • 2017/08/30(水) 18:17:05

貘の耳たぶ
貘の耳たぶ
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芦沢 央
幻冬舎 (2017-04-20)
売り上げランキング: 109,756

帝王切開で出産した繭子は、あるアクシデントと異様な衝動に突き動かされ、新生児室の我が子を同じ日に生まれた隣のベッドの新生児と「取り替えて」しまう。取り替えた新生児は、母親学級で一緒だった郁絵が産んだ子だ。とんでもないことをしてしまった、正直に告白しなければ、いや、すぐに発覚するに違いない……、と逡巡するが、発覚することなく退院の日を迎える。そして、その子は「航太」と名付けられ、繭子の子として育っていく。罪の意識にとらわれながらも、育児に追われ、だんだん航太が愛しくなっていく繭子。やがて四年がたち、産院から繭子のもとに電話がかかってくる。
一方、郁絵は「璃空」と名付けた子を自分の子と疑わず、保育士の仕事を続けながらも、愛情深く育ててきた。しかし、突然、璃空は産院で「取り違え」られた子で、その相手は繭子の子だと知らされる。璃空と過ごした愛しい四年を思うと、郁絵は「血の繋がりがなんだというのだ」と思うのだが、周囲はだんだん「元に戻す」ほうへ話を進める。両家の食事会、バーベキュー、お泊まり……。郁絵の気持ちは揺らいでいく。


帝王切開で出産したことを、心のどこかで後ろめたく思い、不安定な気持ちで新生児室を覗いた繭子が、新生児につけられた名札が外れそうになっているのを見つけて、ついふらふらとそれを取り変えてしまったのは、動機としては弱いかもしれないが、産後の不安定さの中でかけられたふとした言葉や、ほかの母親と我が身を比べて、命を産み、これから育てていかなければならない責任と重圧に押しつぶされそうになり、自信を喪失する気持ちはとてもよく解る。そんな出来心でやってしまったことを、告白する機会を幾度も逃し、退院し、四年もそのままにしてしまったことに、弁解の余地はない。だが、繭子にとっても、子どもを取り違えられた郁絵にとっても、二人の子どもたちにとっても、あまりにも切なすぎる。繭子がもう少し強い心を持てていたら、とか、勇気をもって告白していたら、というのは簡単だが、そのときにはきっと、大きな流れに呑み込まれるように引きこまれてしまったのだろう、とも思う。子どもたちも、親たちも――繭子にはそんな日は来ないとわかってはいるが――、いつか心の傷が少しでも癒えて、屈託なく笑いあえる日が来ることを願うだけである。考えさせられることが多いが、切なすぎる一冊でもあった。

真夜中のパン屋さん 午前5時の朝告鳥*大沼紀子

  • 2017/08/29(火) 18:31:43

真夜中のパン屋さん 午前5時の朝告鳥 (ポプラ文庫)
大沼 紀子
ポプラ社 (2017-06-14)
売り上げランキング: 5,457

真夜中に開店する不思議なパン屋「ブランジェリークレバヤシ」。希実の母・律子の死から五年の月日が経ち、暮林や弘基の周辺には様々な変化の波が訪れていた。それは、常連客である斑目やソフィアやこだま、美作親子や多賀田たちにとっても同様だった。そしてもちろん、希実にとっても……。累計140万部突破のベストセラー「まよパン」シリーズ、ついに完結!!


前作からいきなり飛んだ印象である。それぞれ身辺に変化があり、思いもよらないしあわせに戸惑ったり、どうにもならずに呑み込まれたり、大きすぎる壁に突き当たってめり込んだり、とそれぞれの時間を過ごし、今作に至っている。完結編ということで、あれにもこれにもけりをつけようというのはわからなくもないが、なんとなくどれもが腑に落ちるところまでは到達していないまま終わってしまった気がしてならない。たとえば希実の父親のこととか。弘基と希実のこれからはどうなるのだろう。ブランジェリークレバヤシはどうなっていくのだろう。ラストの一場面で、暮林がパンを焼き続けるだろうことはわかるので、ひとまずほっとした。誰もが少しずつ足りなくて、誰かがそれを埋めてくれる。そんなことを思わされた一冊でもある。

考えるマナー

  • 2017/08/27(日) 20:19:43

考えるマナー (中公文庫)
赤瀬川 原平 井上 荒野 劇団 ひとり 佐藤 優 髙橋 秀実 津村 記久子 平松 洋子 穂村 弘 町田 康 三浦 しをん 楊 逸 鷲田 清一
中央公論新社 (2017-01-19)
売り上げランキング: 103,644

五本指ソックスのはき方からオヤジギャグを放つ方法まで、大人を悩ますマナーの難題に作家や芸人十二人がくりだす名(迷)回答集。座を温めたい、のどかに生きたい、美を匂わせたい…この一冊が、日々の小さなピンチを救う。笑いながら粋な暮らしのヒントが見つかる、新しいマナー考。


いやはやいろんなマナーがあるものだ、とまず苦笑してしまうほど、本書にはマナーが溢れている。すべて真面目に意識的に守ろうと行動したとしたら、数時間でぐったりしそうである。だが、本書を読むのは愉しく、おやおや、とか、ほほぅ、とか、なるほどね、とか、そうだったのか、とか、さまざまな感想を抱きながら読むことができる。実際には役に立ったり立たなかったり、いろいろあるが、筆者の方々の日ごろの胸の裡が、ほんの少しだけ垣間見られるようなのも嬉しいことである。ひとつのマナーについて、見開き2ページで納まっているのも、読みやすい。愉しい一冊だった。

アノニム*原田マハ

  • 2017/08/27(日) 13:48:23

アノニム
アノニム
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原田 マハ
KADOKAWA (2017-06-02)
売り上げランキング: 20,493

ジャクソン・ポロック幻の傑作「ナンバー・ゼロ」のオークション開催が迫る香港。建築家である真矢美里は七人の仲間とともにオークション会場へ潜入していた。一方、アーティストを夢見る高校生・張英才に“アノニム”と名乗る謎の窃盗団からメッセージが届く。「本物のポロック、見てみたくないか?」という言葉に誘われ、英才はある取引に応じるが…!?ポロックと英才、ふたつの才能の出会いが“世界を変える”一枚の絵を生み出した。痛快華麗なアート・エンタテインメント開幕!!


素人の目で単純に見れば、愉快痛快でもあり、プロ集団の仕事の見事さに目を瞠る物語ではあるが、美術関係者の目から見たらどうなのだろうか、といささか心配にもなってしまう。これほどまでに堂々と手際よく、名だたる名画が贋作にすり替えられているとしたら、まったく何を信じればいいか心もとないことこの上ない。だが、純粋にエンターテインメントとして読めば、これほどワクワクドキドキ愉しめて、スカッとする物語もないだろう。愉しい読書タイムを過ごせる一冊だった。

桜風堂ものがたり*村山早紀

  • 2017/08/26(土) 16:34:39

桜風堂ものがたり
桜風堂ものがたり
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村山 早紀
PHP研究所
売り上げランキング: 52,891

百貨店内の書店、銀河堂書店に勤める物静かな青年、月原一整は、人づきあいが苦手なものの、埋もれていた名作を見つけ出して光を当てるケースが多く、店長から「宝探しの月原」と呼ばれ、信頼されていた。しかしある日、店内で起こった万引き事件が思わぬ顛末をたどり、その責任をとって一整は店を辞めざるを得なくなる。傷心を抱えて旅に出た一整は、以前よりネット上で親しくしていた、桜風堂という書店を営む老人を訪ねるために、桜野町を訪ねる。そこで思いがけない出会いが一整を待ち受けていた……。
一整が見つけた「宝もの」のような一冊を巡り、彼の友人が、元同僚たちが、作家が、そして出版社営業が、一緒になってある奇跡を巻き起こす。『コンビニたそがれ堂』シリーズをはじめ、『花咲家の人々』『竜宮ホテル』『かなりや荘浪漫』など、数々のシリーズをヒットさせている著者による、「地方の書店」の奮闘を描く、感動の物語。


風早の老舗百貨店にある、やはり老舗の銀河堂書店と、近郊の過疎化が進む桜野町の桜風堂書店、そして、書店や出版にまつわる人々の物語である。出版業界や書店の日々の仕事の苦労や喜び、書店員さんたちの本に対する愛情や熱意が、読み手にもしっかり伝わってくる。読後は、書店の見方が変わってくるかもしれない。そして書店の物語というだけではなく、生きていくうえで、居場所があるということの大切さや、言葉で伝えることのむずかしさと必要性、認めることと認められること、差させ合い助け合うことのすばらしさ、などなど、たくさんのことを考えさせられる一冊でもある。

短編学校

  • 2017/08/24(木) 16:33:42

短編学校 (集英社文庫)

集英社 (2017-06-22)
売り上げランキング: 99,584

個性あふれる作家陣が、大人への階段を上ろうとする人生の一瞬を鋭くとらえた短編作品集。内面から湧き出る衝動をもてあまし、人生のほろ苦さを味わいながらも大人未満のところにいる。そんな人々が集まる場所。人気作家勢揃いのアンソロジー。


米澤穂信、本多孝好、中村航、関口尚、井上荒野、西加奈子、吉田修一、辻村深月、山本幸久、紺野緒雪、というバラエティ豊かな顔ぶれが、学校に通う年頃の少年少女のあれやこれやを、個性豊かに描いていて興味深い。考えてみると、高校時代というものは、考えることはあまりにも多いのに、それを容れる器が追いつかないという、たいそうもどかしい時代なのだと改めて思わされる。それ故に、そこを通り過ぎた大人から見ると、時にいささか滑稽に見えたりもするのだが、何であれ必死に生きているその世代の人たちが愛おしくなったりもする。感慨深い一冊だった。

満月の泥枕*道尾秀介

  • 2017/08/23(水) 13:11:13

満月の泥枕
満月の泥枕
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道尾 秀介
毎日新聞出版 (2017-06-08)
売り上げランキング: 41,591

生の悲哀、人の優しさが沁みわたる、人情ミステリーの傑作。

娘を失った二美男と母親に捨てられた汐子は、貧乏アパートでその日暮らしの生活を送る。このアパートの住人は、訳アリ人間ばかりだ。
二美男はある人物から、公園の池に沈む死体を探してほしいと頼まれる。大金に目がくらみ無謀な企てを実行するが、実際、池からとんでもないものが見つかった!
その結果、二美男たちは、不可解な事件に巻き込まれていくことになる……。


自分の不注意から最愛の娘を死なせてしまった凸貝二美男は、さまざまな事情を抱えた住人たちの棲むアパートで自堕落な暮らしをしていたが、行く場所を失くした姪の汐子を引き取ることになり、いまは二人で暮らしている。ある日、泥酔して公園で伸びていた二美男は、二人の男が池の端で何かを言い合い、何かが落ちたような大きな水音を聞いた。それがそもそもの物語のはじまりだったのである。そのことにかかわりがありそうな出来事が、あちこちから二美男のもとにやって来て、彼は否応なくその流れに巻き込まれていく。汐子に関わる問題や、剣道場の人間関係にまつわるあれこれや、大切な人を失った哀しみや虚しさなどなど、さまざまな問題要素を織り込みながら、流れはどんどん速くなり、巻き込まれ方も激しくなっていく。だらしないだけだと思っていた二美男にも、複雑な思いが胸の底にあることも判り、周りの人たちとの関係に和まされることもある。生きるって大変だけどいいこともあるんだと思わされる一冊でもある。

愚者の毒*宇佐美まこと

  • 2017/08/21(月) 18:29:55

愚者の毒 (祥伝社文庫)
祥伝社 (2017-04-20)
売り上げランキング: 5,508

一九八五年、上野の職安で出会った葉子と希美。互いに後ろ暗い過去を秘めながら、友情を深めてゆく。しかし、希美の紹介で葉子が家政婦として働き出した旧家の主の不審死をきっかけに、過去の因縁が二人に襲いかかる。全ての始まりは一九六五年、筑豊の廃坑集落で仕組まれた、陰惨な殺しだった…。絶望が招いた罪と転落。そして、裁きの形とは?衝撃の傑作!


初読みの作家さんだったが、惹きこまれた。恵まれない境遇を嘆き、職安に通う女性・葉子が、ある日面接に行った先には、生年月日が同じ希美(きみ)の履歴書が送られていた。そんな縁で親しくなった葉子と希美がそれぞれに抱える過去が、現在を生きる彼女たちをがんじがらめにしている様に、いたたまれなさを感じずにはいられない。現在と過去、さらにさかのぼった過去を行きつ戻りつしながら物語は進み、そこに至る事情が少しずつ読者の前に解き明かされていくにつれ、さらにやり切れなさに包まれる。どこかに戻れば、彼女たちはしあわせになることができたのだろうか。それともどうあがいても、運命を変えることはできなかったのだろうか。出会い、関わってきた人々が、立場を変え、状況を変えて、次々に目の前に現れ、ラストに向かって収束していくのは、心臓を搾り上げられるような緊張感もあり、ページを繰る手が止まらない。運命の過酷さと、人の情の濃やかさを思わされる一冊でもある。

ショートショート・BAR*田丸雅智

  • 2017/08/19(土) 18:50:49

ショートショート・BAR
田丸 雅智
光文社
売り上げランキング: 454,648

お洒落なBAR、ゴールドコースト、甲子園……巧みな舞台設定と絶妙なテンポが癖になる!

行きつけのBARで勧められた奇妙なお酒。アルコール度数マイナス14%……? 不思議なお酒の秘密とは?――「マイナ酒」 1話5分で非日常の世界に酔いしれる! 新世代ショートショートの旗手による、極上の傑作21編!


トニーさんというマスターの営むお洒落なBAR、ゴールドコースト、甲子園、という三つの舞台で繰り広げられる出来事の数々である。それぞれの場所の物語は、少しずつリンクし、続けて読むと何となく別の物語も見えてくるような雰囲気も漂わせていて、愉しめる。ブラックなものは少なく、ラストが明日につながるものが多かった印象もある。隙間時間でも愉しめる一冊である。

クジャクを愛した容疑者 警視庁いきもの係*大倉崇裕

  • 2017/08/17(木) 16:39:47

クジャクを愛した容疑者 警視庁いきもの係
大倉 崇裕
講談社
売り上げランキング: 41,910

学同院大学で起きた殺人事件の容疑者は、クジャク愛好会の奇人大学生! だが無実を信じる警視庁いきもの係の名(迷)コンビ、窓際警部補・須藤友三と動物オタクの女性巡査・薄圭子はアニマル推理を繰り広げ、事件の裏側に潜むもうひとつの犯罪を探り当てる!? 犯人確定のカギはクジャクの「アレ」!?

警視庁の「いきもの係」というべき、総務部動植物管理係の名コンビ、窓際警部補・須藤友三(すどう・ともぞう)と動物オタクの女性巡査・薄圭子(うすき・けいこ)のアニマル推理が楽しめます!


ドラマ化もされ、ますます親しみを覚えるシリーズである。(石松の配役は全く別物だが。)今回は、ピラニア、クジャク、ハリネズミである。薄圭子は(すっかり橋本環奈で頭の中に登場するが)、相変わらず、人間社会のことにはまったくといっていいほど興味がなさそうで、とんちんかんな受け答えに苦笑するばかりだが、それを軽くいなす須藤も、なにやらすっかり慣れた様子で微笑ましい。今作では、いきもの係に捜査一課から芦部という新人が配属され、どんなに頼りになるかと思えば、生き物アレルギーだったりして、当てにしていいのかどうか悩ましい。薄の天然の行動によって、捜査中の事件の謎がひとつずつ明らかにされていくのは、見ていて愉しくなる。手柄を手柄と思っていないところも可愛い薄巡査である。最後の最後のそのまた最後に載せられている、「取材協力」にも思わず笑わされてしまった。次は何の生き物か愉しみなシリーズである。

I Love Father

  • 2017/08/16(水) 09:56:45

I Love Father
I Love Father
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冲方 丁 岡崎 琢磨 里見 蘭 小路 幸也
宝島社
売り上げランキング: 494,596

冲方丁、岡崎琢磨、里見蘭、小路幸也、友清哲――
大人気ストーリーテラーが贈る、「父」にまつわるミステリー。

大学教授の父が女子学生からセクハラの告発を受ける……?(小路幸也「美女とお父さんと私」)、
船乗りの父に憧れる僕だったけど、ある日、父が「船を降りる」と言い出して……?(岡崎琢磨「進水の日」)など5編。
魅力的な謎と、愛すべきお父さんたちに出会う、珠玉のミステリーアンソロジー!


それぞれ味わいの違う物語である。感動するもの、胸にぐっとくるもの、温かい心持ちになるもの、そして目を疑うもの……。父にもいろいろあり、その父を持つ子もまたさまざまである。父と子の在り方に正解はないだろう。それぞれの子にとって、いちばんの父であってくれることを願うのみである。ぎゅっと詰まった一冊である。

東京カウガール*小路幸也

  • 2017/08/15(火) 12:32:28

東京カウガール
東京カウガール
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小路 幸也
PHP研究所
売り上げランキング: 296,734

きみは知らない/きみを知りたい
僕は動けなかった。恐怖心からではなく、男たちを叩きのめすその女性に見惚(みと)れてしまったんだ――。
その夜、カメラマン志望の大学生・木下英志は夜景を撮っていた。人気(ひとけ)のない公園で鈍い音を聞きつけカメラを向けると、そこには一人の女性がいた。彼女は屈強な男たちを叩きのめすと、車椅子の老人を伴い車へと消えた……。後日、改めて画像を見た英志は気づく。「似ている。横顔が、あの子に」
〈カウガール〉と名付けた彼女の画像を頼りに、その正体に近づいていく英志だったが、やがて彼女自身にも心を寄せていく。そして辿り着いた真相と、彼女の家族が背負った哀しい過去とは? 累計150万部突破の「東京バンドワゴン」シリーズの著者が描く、もう一つの「東京」の物語。


東京郊外の牧場が舞台ののんびりほのぼのした物語、ではない。実際には、都心のど真ん中で、物騒な出来事が繰り広げられる物語である。何人ものどうしようもない男たちが、再起不能なほど叩きのめされている。そして、そのことに偶然気づいてしまった大学生の英志(えいじ)が、バーを営むゲイの叔父や店の常連客たちと、秘密裏に策を練る、ものすごく不穏な物語なのである。それでも、なんとなく漂う雰囲気は穏やかでやさしくあたたかい。登場人物たちがみな、誰かのことをまっすぐに思いやり、その人のためにできる限りのことをしようと決意しているからなのかもしれない。裏事情はさまざまあって、きれいごとだけでは済まされないこともままあるが、人の思いがまっすぐで確かなものなら、良い結果がついてくるのだと思わせてくれる。哀しく切なく、じんわり心温まる一冊である。

アキラとあきら*池井戸潤

  • 2017/08/14(月) 07:54:14

アキラとあきら (徳間文庫)
池井戸潤
徳間書店 (2017-05-17)
売り上げランキング: 223

零細工場の息子・山崎瑛(あきら)と大手海運会社東海郵船の御曹司・階堂彬(かいどうあきら)。生まれも育ちも違うふたりは、互いに宿命を背負い、自らの運命に抗って生きてきた。やがてふたりが出会い、それぞれの人生が交差したとき、かつてない過酷な試練が降りかかる。逆境に立ち向かうふたりのアキラの、人生を賭した戦いが始まった――。

ベストセラー作家・池井戸潤の幻の青春巨篇がいきなり文庫で登場! !


タイトルと、表紙のイラストから、努力家の零細工場の息子・山崎瑛が、鼻持ちならない御曹司・階堂彬に立ち向かって勝つ物語かと予想したのだが、そんなありきたりな物語ではなかった。瑛も彬もどちらも自分の置かれた環境に埋没することなく、抗って自らの進む道を切り拓いていく。それぞれの場所で自分を極めた二人が出会い、反発するのかと思いきや、互いを認め合い力を合わせて互いを守り抜く。どこまでもいい奴らなのである。二人とも初心を忘れず、環境に流されることなく思いを貫く強さと、考え方の柔軟性を持っていて、魅力的過ぎる。思いの熱さに何度涙を誘われたことだろう。700ページ超えの大作なのだが、あっという間に読み終えてしまい、それでもまだ読み続けたいと思わされる一冊である。

明治・妖モダン*畠中恵

  • 2017/08/11(金) 16:41:29

明治・妖モダン
明治・妖モダン
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畠中 恵
朝日新聞出版 (2013-09-06)
売り上げランキング: 19,356

「江戸が終わって20年。妖たちが、そう簡単にいなくなると思うかい?」煉瓦街が広がり、アーク灯が闇を照らす銀座に、ひっそりと佇む巡査派出所。そこに勤務する原田と滝は、“かまいたち”に襲われた者や、瞬く間に成長を遂げる女の子の世話など、不思議な対応に追われてばかり。それらは、とてもこの世のものとは思えず…。摩訶不思議な妖怪ファンタジー。


第一話 煉瓦街の雨  第二話 赤手の拾い子  第三話 妖新聞  第四話 覚り 覚られ  第五話 花乃が死ぬまで

このシリーズの一作目だが、読んでいなかっただろうか(なぜか読んでいなかったようである)。ただでさえ忙しい銀座の巡査、滝や原田のところには、きょうも事件が押し掛けてくる。近所の牛鍋屋・百木屋の主・百賢、常連客のお高や赤手を巻き込んで、解決したり、余計にややこしくしたりと大忙しである。江戸から明治に替わって二十年。華やかな表の顔を見せる銀座の煉瓦街も、一歩裏手に入れば、妖しい雰囲気も流れている。まだまだ人と妖が近くに居た時代の、ちょっと不思議な日常の物語である。二作目から読んだからこそ判りやすい部分もあったかもしれない。この先も愉しみなシリーズである。