さよなら僕らのスツールハウス*岡崎琢磨

  • 2018/01/23(火) 06:49:53

さよなら僕らのスツールハウス
岡崎 琢磨
KADOKAWA (2017-10-26)
売り上げランキング: 348,695

関東某所、切り立った崖に建つシェアハウス、「スツールハウス」。
その名の通り、若者たちが腰をかけるように住み、旅立って行く場所。
同じ屋根の下、笑い、ときめき、時間を共有するものたちは、やがて懐かしく思い出す。
日常の謎に満ちた、何気ない生活を。
そしてそこには確かに、青春があったのだと……。

~何気なくも愛おしい青春の謎たち~
第一話 「メッセージ・イン・ア・フォト」弁護士の直之が、元彼女・あゆみの結婚式の動画用に送った写真の謎とは。
第二話 「シャワールームの亡霊」無人のシャワールームから聞こえるシャワーの水音に隠された、ある事件。
第三話 「陰の花」フラワーショップで働く白石は、かつての同居人で既婚の花織から、ある花の写真を見せられ……。
第四話 「感傷用」16年間住み続け、「スツールハウスの主」と呼ばれた女性、鶴屋素子。彼女がそこを去った訳とは。
第五話 「さよなら私のスツールハウス」人気作家となった素子は、「スツールハウス」を訪れるが……。


偶然同じ時期にシェアハウスで暮らすことになった人たちの間で起こった出来事の中に潜む日常の謎が描かれている。謎と言っても、ほのぼのとするものもあれば、心の闇を描くものもあり、テイストはさまざまである。それぞれの事情に絡む謎もあって、飽きさせない。スツールハウスの主と呼ばれる鶴屋素子の事情が明らかにされたときには、腑に落ちることがいくつもあった。腰掛の暮らしが彼らに与えた影響の大きさをも思わされる一冊である。

花歌は、うたう*小路幸也

  • 2018/01/22(月) 07:29:58

花歌は、うたう
花歌は、うたう
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小路 幸也
河出書房新社
売り上げランキング: 111,632

天才的ミュージシャンだった父の失踪から9年。秘められた音楽の才能が花開くとき、止まっていた時が動き始める―。幼なじみの勧めで歌をうたうことに真剣に向き合い始めた花歌は、父親譲りの天才的な音楽の才能を花開かせていく。そんな中、父・ハルオの目撃情報が届き…。祖母・母・娘、三世代女子家庭の再生の物語―。


ストーリーはかなり劇的ではあるものの、物語自体は割と淡々とよくある日常のひとコマを切り取ったように描かれている。主人公の花歌がいちばんのほほんとして見えるのは、祖母のうたや母の花子を始めとする周りの大人たちや、親友のむっちゃんやリョーチのおかげなのだろう。そして、無自覚な才能を引き出せるということは、それもまた才能なのだろう。伝説のミュージシャンで花歌の父・ハルオの失踪に至る心の闇には、さらりと触れるだけだったので、そこももっと知りたい気はしたが、それはまた別の物語になってしまいそうではある。花歌の歌を実際に聴いてみたくなる一冊である。

きっと嫌われてしまうのに*松久淳+田中渉

  • 2018/01/18(木) 16:48:38

きっと嫌われてしまうのに
松久 淳 田中 渉
双葉社
売り上げランキング: 479,956

高校入学後、充はユキちゃんにひとめぼれした。それまで遊び人キャラだったが、
人が変わったように彼女を前にするとまともに話すことも出来なくなってしまう。
しかし、周りから「ストーカー」扱いされるほどの猛アタックの末、二人は付き合うことになった。
しかし、ふとした瞬間ユキちゃんは寂しそうな無気力なような表情を見せる。
彼女にはある秘密があった――。高校生にふりかかる残酷な現実。
最終章で世界が一転する二度読み必至のどんでん返し!


高校生の熱烈純愛物語かと思わせて、実は複雑な問題を潜ませている物語である。素直な読者はあっという間に騙され、最終章でがらっと世界が様相を変えることになる。その快感は味わえるのだが、内包している問題についての嫌悪感は強く、二度の大震災の扱われ方にも共感できなかった。何とも後味の悪い一冊だった。

樹海警察*大倉崇裕

  • 2018/01/17(水) 18:26:43

樹海警察 (ハルキ文庫)
大倉崇裕
角川春樹事務所
売り上げランキング: 51,963

初任幹部科教育を終え、警部補になった柿崎努は、山梨県警上吉田署という辺鄙な場所、しかも聞いたこともない部署へ配属となった。署長に挨拶も行かず署員からおもむろに渡されたのは、カーキグリーンの軍用ベストやズボン、そして登山靴―。さらに連れて行かれた場所はなんと樹海…!?栗柄巡査、桃園巡査、そして事務方の明日野巡査長と共に、樹海で見つかった遺体専門の部署・地域課特別室に勤務することに…!腐乱死体から事件の匂いをかぎ取る!!書き下ろし樹海警察小説登場。


左遷された自覚がなく、あくまでも正論を貫く警部補・柿崎が着任したのは、樹海専門の特別室。課員は栗柄、桃園、そして事務方の明日野の三人。すべて訳ありでここにいる面々であり、それぞれにキャラが濃いが、各自のやり方で確実に捜査を進めていく様子は、強引で違法ぎりぎりの場合もあるが、頼もしくすらある。樹海で見つかる遺体を見て、事件の匂いを嗅ぎつける嗅覚はもちろん、真相を暴き出す手腕も見事である。いろいろ明らかになっていない点もあるので、シリーズ化されるのだろうか。このメンバーのはちゃめちゃぶりをもっと見てみたいと思わされる一冊である。

手がかりは「平林」*愛川晶

  • 2018/01/15(月) 18:49:24


落語を聞いていた児童たちのたわいない言葉遊びがお伝さん襲撃事件に意外なかたちでむすびつく(「手がかりは『平林』」)、お伝さんのテレビ出演から血縁問題がもちあがり大金が絡んで遺産騒動に!そこで犯人あぶり出しになんと「立体落語」を持ち出す(「カイロウドウケツ」)。落語好きからミステリマニアまで楽しめるシリーズ最新刊!


シリーズとは知らずに最新刊から読んでしまったが、物語自体は、問題なく愉しめる。別のシリーズの神楽坂倶楽部の関係者もちらっと登場し、行き来のあるシリーズになっているようなのが、愉しくもある。謎解き自体も、それぞれ違った趣向で、お伝の生い立ちに絡む複雑な事情と相まって、嫌でも興味をそそられる構成である。これから先も愉しみだが、遡って読んでみたいシリーズである。

ミステリークロック*貴志祐介

  • 2018/01/13(土) 18:19:21

ミステリークロック
ミステリークロック
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貴志 祐介
KADOKAWA (2017-10-20)
売り上げランキング: 7,341

犯人を白日のもとにさらすために――防犯探偵・榎本と犯人たちとの頭脳戦。

様々な種類の時計が時を刻む晩餐会。主催者の女流作家の怪死は、「完璧な事故」で終わるはずだった。そう、居あわせた榎本径が、異議をとなえなければ……。表題作ほか、斜め上を行くトリックに彩られた4つの事件。


表題作のほか、「ゆるやかな自殺」 「鏡の国の殺人」 「コロッサスの鉤爪」

防犯探偵・榎本と弁護士の青砥純子が凸凹コンビのようで、榎本の身になってつい笑ってしまう。女性弁護士でこのキャラはなかなか珍しいのではないだろうか。物語は、トリックがかなり高度で、図解されていてもなかなか理解しにくい部分もあるのだが、なんとなくの理解でも充分愉しめるので、ところどころ突き詰めずに読み進めた。謎解きをされた当事者たちは、しっかり理解できているのだろうか。それを於いても、ハラハラドキドキさせられるものばかりで、榎本の目のつけどころが、常人とはいささか違うところも興味深い。難解な部分はあるにしても、500ページ越えを感じさせない愉しい読書タイムを過ごさせてくれる一冊である。

銀杏手ならい*西條奈加

  • 2018/01/09(火) 16:34:45

銀杏手ならい
銀杏手ならい
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西條奈加
祥伝社
売り上げランキング: 373,611

小日向水道町にある、いちょうの大樹が看板の『銀杏堂』は、嶋村夫婦が二十五年に亘って切り盛りしてきた手習指南所。子を生せず、その家に出戻ることになった一人娘の萌は、隠居を決め込む父・承仙の跡を継ぎ、母・美津の手助けを得ながら筆子たちに読み書き算盤を教えることに。だが、親たちは女師匠と侮り、子供たちは反抗を繰り返す。彼らのことを思って為すことも、願い通りに届かない。そんなある日、手習所の前に捨てられていた赤ん坊をその胸に抱いた時、萌はその子を引き取る決心を固めるが……。子供たちに一対一で向き合い、寄り添う若き手習師匠の格闘の日々を、濃やかな筆致で鮮やかに描き出す珠玉の時代小説!


三年子をなせず、婚家から出された萌は、父の手習指南所を任されたが、心の痛みから、なかなか一心に打ち込むことができずにいた。だが、ひとりひとりの筆子の事情や、懸命に生きている彼らに近しく接するうちに、次第に自らも力を得ることができ、子どもたちと真正面から向き合うようになっていく。それには、我が子として育てることにした、自分と同じ境遇の捨て子・美弥の存在がことのほか大きいようである。初めは胡散臭く思っていた師匠仲間の椎葉たちとの会話の中からヒントを得て、子どもたちの抱える問題を解決に向かわせる様子も、機転と知恵と思いやりの気持ちが伝わってきて好ましい。心温まる一冊である。

GOSICK BLUE*桜庭一樹

  • 2018/01/07(日) 16:42:35

GOSICK BLUE
GOSICK BLUE
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桜庭 一樹
KADOKAWA/角川書店
売り上げランキング: 72,779

遠い海を越え、ついに辿り着いた新大陸で巻き込まれたのは、新世界の成功を象徴する高層タワーで起きた爆破事件! そのとき、タワー最上階のヴィクトリカと、地下の一弥は――! ?大人気ミステリ新シリーズ、第二弾!


シリーズ第二弾だが、時はいささか遡り、ヴィクトリカと一弥が新大陸に移民としてやって来た当日に巻き込まれた顛末の物語である。どうやら、ここがすべての出発点ということになりそうである。先行きが案じられる一日目であるが、貴重な人間関係が結べたということもできるのかもしれない。三作目からは落ち着くところに落ち着くのだろうか。気になるシリーズである。

GOSICK RED*桜庭一樹

  • 2018/01/05(金) 16:33:08

GOSICK RED (単行本)
GOSICK RED (単行本)
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桜庭 一樹
KADOKAWA/角川書店
売り上げランキング: 59,355

時は1930年代初頭、ニューヨーク。超頭脳“知恵の泉”を持つ少女ヴィクトリカは探偵事務所を構え、久城一弥は新聞社で働いている。街は好景気に沸き、禁酒法下の退廃が人々を闇へと誘う。ある日、闇社会からの依頼人がヴィクトリカを訪れ、奇怪な連続殺人の解決を依頼する。一方、一弥は「心の科学で人々の精神的外傷を癒やす」という精神分析医のもとに取材に向かっていた。やがてすべての謎はひとつに繋がり、恐るべき陰謀が姿を現す―。新シリーズスタート!!


アメリカ、しかもまだ混沌としているような時代が舞台なので、いささか敬遠していたのだが、積読本が心細くなって手にしてみた。ファンタジーのようでもあり、コメディのようでもあり、シリアスな事件を扱う探偵ものでもあり、とさまざまな愉しみ方ができるのだが、ヴィクトリカと九城一弥の関係性が、いまひとつすとんと腑に落ち切らないので、のめり込むところまではもう一歩と言った感じである。だが、彼らのことをもっと知りたいという気持ちにはさせられるので、引き続き読んでみようと思わされるシリーズではある。

駐在日記*小路幸也

  • 2018/01/03(水) 07:29:19

駐在日記 (単行本)
駐在日記 (単行本)
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小路 幸也
中央公論新社
売り上げランキング: 263,554

昭和五十年。横浜で刑事をしていた蓑島周平は、皆柄下郡・雉子宮駐在所に赴任した。ある事件で心身に傷を負った妻の花と穏やかな暮らしをするため、自ら希望した人事だった。しかし、優しくて元気な人ばかりのこの雉子宮にも、事件の種は尽きないようで……。平和な田舎の村を守るため、駐在夫婦が駆け回る! 「東京バンドワゴン」シリーズの著者が贈る、どこか懐かしい警察連作短編。


横浜の捜査一課の刑事から、田舎町の駐在さんになった簑島周平の新婚の妻・花さんの駐在所の日々の覚え書きのような日記がベースになった物語である。花さん目線で描かれているので、警官の物語で、平和な土地柄ながらときおり起こる事件も、殺伐とした印象はなく、関係者の動向や心情が柔らかく描かれているので、どこかほのぼのとした空気感が漂っている。近所の人たちからお裾分けで届く野菜などを使った食卓の様子も、東京バンドワゴンにどこか通じるところがあって、気分が和む。外科医だった花さんの怪我の理由が明らかにされていないので、これはシリーズになるということですよね。これからの雉子宮駐在所が愉しみな一冊である。

インフルエンス*近藤史恵

  • 2017/12/31(日) 14:30:41

インフルエンス
インフルエンス
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近藤 史恵
文藝春秋
売り上げランキング: 93,985

大阪郊外の巨大団地で育った小学生の友梨(ゆり)はある時、かつての親友・里子(さとこ)が無邪気に語っていた言葉の意味に気付き、衝撃を受ける。胸に重いものを抱えたまま中学生になった友梨。憧れの存在だった真帆(まほ)と友達になれて喜んだのも束の間、暴漢に襲われそうになった真帆を助けようとして男をナイフで刺してしまう。だが、翌日、警察に逮捕されたのは何故か里子だった――
幼い頃のわずかな違和感が、次第に人生を侵食し、かたちを決めていく。深い孤独に陥らざるをえなかった女性が、二十年後に決断したこととは何だったのか?


ある女性から、同年代の女性作家の元に、聞いてもらいたいことがあるという手紙が届いたことがきっかけで、彼女の話を聴くことになった。大きく見れば作家の目線で語られるのだが、大部分は女性が話しているので、彼女の目線で物語は進んでいく。大阪の大きな団地で過ごした幼少期から、小学生中学生と成長する間に、我が身や友人たちの身に起こった重すぎる出来事やそれにまつわるあれこれ、そして高校大学と進み、社会に出て、かつての友人たちとの関係性もどんどん希薄になっていると思っていたある日、またそのつながりが再燃し、呪縛から逃れられてはいなかったことに気づかされる。物語の初めから漂う不穏さは、全編に漂い続け、心が安らぐときがないのだが、最後の最後に作家が自らの卒業アルバムで見つけたものが、彼女たちのつながりののっぴきならなさをさらに強めているようでもある。どこまでもどってどうしていたらなにものにも縛られない明るい道を歩けたのだろうか。ぐるぐると同じ道を迷い続けているような心地の一冊である。

宇宙探偵ノーグレイ*田中啓文

  • 2017/12/30(土) 16:50:57

宇宙探偵ノーグレイ (河出文庫)
田中 啓文
河出書房新社
売り上げランキング: 52,618

怪獣惑星で発生した人気怪獣の密室殺人。罪を犯すことが不可能な天国惑星で起きた連続殺人。全住民が脚本どおりの生活をおくる演劇惑星で生じた劇中殺人…極秘に事件を解決するために招かれるは、宇宙探偵ノーグレイ!名探偵は五度死ぬ?奇想天外な結末が待つ、宇宙ミステリ作品集。


「怪獣惑星キンゴジ」 「天国惑星パライゾ」 「輪廻惑星テンショウ」 「芝居惑星エンゲッキ」 「猿の惑星チキュウ」

宇宙探偵ノーグレイは、のっぴきならない事情(たいていの場合は多額の借金)によって報酬に目がくらみ、宇宙で起きた事件を操作するために、さまざまな星へと出かけていく。そして、その都度、まあ何とか真相を突き止めはするのだが、生きて帰ることはできずに結末を迎えることになるのである。優秀なんだか間抜けなんだかよくわからない探偵ではある。毎度死んでいるのに、次の話しではまた何事もなかったかのように同じことを繰り返しているのは、最後の章のあれがヒントになっているのだろうか。地球だけでも充分にややこしいのに、宇宙規模でこれ以上ややこしくなるのは御免こうむりたいと思う一冊でもある。

逃亡刑事*中山七里

  • 2017/12/28(木) 07:48:27

逃亡刑事
逃亡刑事
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中山 七里
PHP研究所
売り上げランキング: 40,112

千葉県警の警察官が殺された。捜査にあたるのは、県警捜査一課で検挙率トップの班を率いる警部・高頭冴子。陰で〈アマゾネス〉と呼ばれる彼女は、事件の目撃者である八歳の少年・御堂猛から話を聞くことに。そこで猛が犯人だと示したのは、意外な人物だった……。
思わぬことから殺人事件の濡れ衣を着せられた冴子。自分の無実を証明できる猛を連れて逃げ続ける彼女に、逆転の目はあるのか!? 冴子は真犯人にどう立ち向かうのか? どんでん返しの帝王と呼ばれる著者が贈る、息をもつかせぬノンストップ・ミステリー


内容紹介の通り、まさにページを繰る手が止まらなかった。現実的とは言えないかもしれないが、アマゾネスの異名をとる女性刑事を主役に据え、たったひとりの直属の部下を除いて、県警内部の誰が敵かも判らない状況で、真実を暴こうと奮闘する高頭冴子の体当たり刑事生活が爽快である。正攻法とは言えない捜査方法ではあるが、だからこそ得られた協力の手が頼もしく、胸がすく思いがする。最後の猛のひと言で、すべてが報われた気がする。爽快な読書タイムをくれた一冊である。

彼方の友へ*伊吹有喜

  • 2017/12/26(火) 16:19:39

彼方の友へ
彼方の友へ
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伊吹 有喜
実業之日本社
売り上げランキング: 3,426

「友よ、最上のものを」
戦中の東京、雑誌づくりに夢と情熱を抱いて――
平成の老人施設でひとりまどろむ佐倉波津子に、赤いリボンで結ばれた小さな箱が手渡された。
「乙女の友・昭和十三年 新年号附録 長谷川純司 作」。
そう印刷された可憐な箱は、70余年の歳月をかけて届けられたものだった――
戦前、戦中、戦後という激動の時代に、情熱を胸に生きる波津子とそのまわりの人々を、あたたかく、生き生きとした筆致で描く、著者の圧倒的飛躍作。

実業之日本社創業120周年記念作品
本作は、竹久夢二や中原淳一が活躍した少女雑誌「少女の友」(実業之日本社刊)の存在に、著者が心を動かされたことから生まれました。


現在の佐倉波津子は高齢者施設で夢と現を行き来するような日々を送っている。傍からは、何も考えていないように見えるかもしれないが、頭の中には、来し方のあれこれが渦巻いていて忙しい。そんな波津子が駆け抜けてきた人生が彼女の目線で繰り広げられている。時折現在の様子に立ち戻るとき、そのギャップは人の老いというものを思い知らされるが、頭の中は存外誰でも活き活きしているのかもしれないとも思わされて、勇気づけられもする。そんな波津子の元へ、あのころの思い出の品とともに、関わって来た人たちとゆかりのある若い人たちが訪れ、話を聴きたいと言いう。積年の想いも報われ、波津子と「乙女の友」に関わった人たちの生き様が語り継がれることになるのである。ラスト三分の一は、ことに、涙が止めどなく、あふれるままに読み進んだ。外で読むには向かないが、中味がぎっしり詰まった読み応えのある一冊である。

木曜日にはココアを*青山美智子

  • 2017/12/22(金) 16:56:46

木曜日にはココアを
木曜日にはココアを
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青山 美智子
宝島社
売り上げランキング: 83,555

僕が働く喫茶店には、不思議な常連さんがいる。必ず木曜日に来て、同じ席でココアを頼み、エアメールを書く。僕は、その女性を「ココアさん」と呼んでいる。ある木曜日、いつものようにやって来たココアさんは、しかし手紙を書かずに俯いている。心配に思っていると、ココアさんは、ぽろりと涙をこぼしたのだった。主夫の旦那の代わりに初めて息子のお弁当を作ることになったキャリアウーマン。厳しいお局先生のいる幼稚園で働く新米先生。誰にも認められなくても、自分の好きな絵を描き続ける女の子。銀行を辞めて、サンドイッチ屋をシドニーに開業した男性。人知れず頑張っている人たちを応援する、一杯のココアから始まる温かい12色の物語。


登場人物もエピソードも、何一つ無駄がなく、点と点が見事にひとつながりになっている。次の話しでは、誰が誰とどんな風につながっているのだろう、という興味でどんどん愉しくなっていく。じんとしたり、ほろりとさせられたり、微笑ましく眺めたり、それぞれの物語もしっかりしているので、なお愉しめる。ただ、ひとつ気になったのは、「等親」という言葉。ない言葉ではないと思うが、「親等」の方がずっと一般的ではないだろうか。それとも何か意図があって、使ったのだろうか。いささか気になった。それ以外はとても愉しい一冊だった。